「ふわぁ」


欠伸をした声が聞こえたかと思えば、ぎゅううと音が鳴りだしそうなくらい強い力で後ろから無言で抱き締められる。朝っぱらからこんな事をしてくる人物はもちろん1人しか居ない。


「離して下さいよ、監督」


少し間が開いてから「嫌だ」なんて子供みたいに言ってくる。一応、年齢的に私の方が子供なんだけどな。


「監督、もうそろそろしたらみんなが起きて来ちゃうんですけど」
「そうだな」


なんなんだこの人は。2人っきりの時は滅多に抱き締めてくれない癖に、なんで最近の朝はいつもこうなんだ…。嬉しい気持ちもあるけど半ば呆れている気持ちもある。こう毎朝の様にごねられては大変なのだ。


「はあ…監督ー」
「……名前」
「はい?」
「シャワー浴びてたのか?」
「?…そうですよ」
「良い匂いがする」


先ほどまで私の肩にあった監督の頭が首に移動し、そこに掛かっていた襟足の髪を掻き分けられて現れたうなじにキスされる。監督の鼻息が首に当たると同時に髭が首を掠めてくすぐったい。


「明日、暇か…?」
「まあ練習もないですし暇ですね」
「なら出掛けようか」


私の背中から離れて真正面に周り、「2人で」と久遠監督らしからぬ優しい微笑みで言われた。そりゃあ答えは1つしかない。


「はい!」


20100920


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