「名前」 大好きなあの人の名前を呟くけど、僕しか居ない静まり返った納屋に言葉は呑まれる。年に一回親族が本家に集まる日が今日だった。たけど、名前は用事があって来れないらしい。はっきり言ってしまえば、寂しくて名前の名前を呟いた。 僕と名前の住んでる場所は遠くて会えないから年に一回のこの日が楽しみで今まで過ごして来たのに、会えないなんて。 「最悪だ…」 いとこ同士で小さい頃から一緒だった3歳年上の名前。僕の初恋の人は名前で、その時の僕はまだ5歳。自分でもませてるな、とは思うけどあの時から今でもずっと好きなんだ。 だけど、名前が好きなのは侘助おじさんで…。初恋は実らないとはまさにこの事。全然叶いそうもない。だけども、やっぱり好きな人とは結ばれたいから僕なりに努力をした。少しでも名前に気付いてもらいたくて…。でも努力したって年のさなんて埋まるはずもなく、僕と名前の年のさを恨んだ。もう少し僕が早く産まれていれば…、僕が名前と同い年だったら…、そんな思いが怒りに触れる。けどそんな事で怒るのは筋違いだ。 「名前」 「なに?」 「えっ?」 僕しか居ない納屋でまた言葉を吐けば静けさに飲み込まれるだろうと思っていたのに返事が帰ってきた。急いで声のする方へ振り向けば、僕の悩みの種の張本人が居た。 「な、んで?」 「なんでって、なんで?」 「だって今年は来れないって、」 「ああ…それがさ来れちゃったんだよね。あは」 「何だよそれ」 「ごめんごめん」 僕の前で手を合わせて笑いながら謝ってくる。どうしようか。今年は会えないと思って寂しくなっていたから今、会えて物凄く嬉しくて抱き締めたい。 「あのね私、一番に佳主馬に会いたくて急いで来たんだよ!」 名前が「えへへー」と言いながらピースしてくるから自惚れてしまいそうになる。 「ほんとに?」 「ほんとに!だからお母さんとか置いてきちゃった!」 「1人で来たの?」 「うん!」 「…危ないじゃん」 「なに、心配してくれてんの?」 「当たり前でしょ」 「ふふ、ありがとう」 ふわりと笑ってお礼を言う名前かが大人びていて、名前との歳のさが直に感じられて辛くなった。 「ねえ、名前」 「ん?」 「…まだ…侘助おじさんが好きなの?」 「…あー気付いてたんだ」 「まあね」 目を反らして、頬をポリポリと掻き出す。まるでこの話題に触れられたくなかった様な顔をしている。何だよその反応。 「まだ好きって言ったら好き…かも知れないけど、分かんない」 「なにそれ」 「色々と、ね」 「ふーん」 眉間に皺を寄せながら辛そうな顔して話す名前。なんでまだ好きなんだよ。そんな顔するならなんでおじさんを好きになったの。…どうして名前は僕を好きにならないの。苦しいよ名前。 目の前に名前が居るのに僕はどうして名前の目に映ってないんだよ。…ねえ…僕、もう無理だ。 「名前好きだよ」 20100821 |