「有人!」 隣に座ってる名前が何か考えてるな、と思ったら声を張り上げて来た。 「何だ?」 「私と春奈ちゃんどっちが好き?」 「…暑さで遂におかしくなったか」 「なってない!はっきり答えて!」 「何でそんな事を聞く必要があるんだ?」 「聞きたいから!」 何時になく真剣な顔をして話している名前が可愛いとは思うが、はっきり言ってしまえば俺はこの話の内容をはぐらかしたい。だが名前は頑固だから言いだしたら自分が納得するまで引き下がらないし。…はあ。俺にどうしれと? 「ねーどうなのー」 「明日、久しぶりに源田達に会いに行くか」 「わーそれ良いね!私もみんなに会いたいなあ」 「そうだな」 「ってそうじゃない!はぐらかさないでよ!」 「ちっ、」 「舌打ちしない!」 いつもなら、はぐらかされたままでいる癖に。何なんだ今日は。 「さあ!答えなさい!」 「…何故、そんな事を聞く?」 「だって、私より春奈ちゃんに対して優しいし、私より春奈ちゃんと居る方が楽しそうなんだもん」 罰の悪そうな顔をしながら、そう言われる。なんだ、ただの嫉妬か。ああ、頬が弛んでくるし、耳は熱くなる。参ったな。 「名前」 「何よ」 名前を呼べば、眉間に濃い皺を寄せながら伏せていた顔をあげる。そのまま抱き締めてやれば、おとなしく俺の背中に腕を回してくる。 「俺が妹の春奈に対してこんな事するか?」 「帝国戦の時にしてたんでしょ?…円堂くんに聞いたわよ、馬鹿」 円堂の奴め。今回ばかりは恨むぞ。名前が余計に機嫌が悪くなったじゃないか。声色が明らかに1トーン低くなるのが分かる。 「名前」 「…」 「好きだ。…大好きだ。…愛してる」 今まで名前に余り言って来なかった言葉を吐けば、体を引き剥がされ「私の方が大好きだもん!」なんて頬を真っ赤に染めながらニヤニヤした顔で言われる。ムカつく顔だな。でもそれが愛しい。気付けば、名前に手を伸ばしていて顔を近付け何度もキスを落とす。瞼に耳に頬に口に。離れれば、目を細めて笑っていた。そんなに嬉しいのか。そんな名前を見ていると俺まで嬉しくなってきてもう一度抱き締める。 「私、愛されてるね」 「馬鹿言え」 「ねえ私と春奈ちゃんどっちが好き?」 「さっき答えたろ」 「あれは、私をどれだけ好きかって事だからだーめ」 この減らず口が。…俺はこういうのが余り得意ではないから、最初から答えたくなかったのに。ったく。 「春奈より名前を好きじゃなきゃキスしないと思うが?」 「…そ、そお?」 「ああ」 晴奈に対して優しいのは晴奈が妹だから。名前に対して優しく出来ないのはこいつが可愛くてつい苛めたくなるから。まあ、こんな事恥ずかしくて言えないけどな。あ、でも言ってやったらどんな顔するのだろうか。 「なに?」 「別に…ただ名前の事を考えてただけだ」 20100807 |