私が率いるダイヤモンドダストには女が数人居る。その中でも一際美人で女とは思えない程好戦的な奴が居る。
そいつは名前と言い、とても不思議な奴だ。私事でなければ何をするにも必ず私に許可を取ってから行動する。
良く言えば、従順。悪く言えば、めんどくさい。そんな奴だ。何故、そんな回りくどい事をするのかは知らない。まぁ問うつもりもないしな。


「ガゼル様」
「なんだ?」
「シュートしても宜しいでしょうか?」
「別に構わない」


ほらまただ。サッカーの練習をしてるのにシュートをしていいかと聞いてくる。そんな事わざわざ聞かなくても打てばいいのに。全く理解し難い奴だ。


「ガゼル様」
「なんだ?」
「抱き付いても宜しいでしょうか?」
「ああ。…は?」
「では」


ぎゅううと、強くけれど優しく抱き付かれる。こいつはたまに変な事を言いだす。髪を触っていいかだの、撫でていいかだの、手を繋いでいいかだの、必ず人目の付かない場所で聞いてくる。まあそれを許可してる私もどうかしてるが。最近は慣れたが、抱き付いていいかと聞かれたのは初めてだ。
何だろうか。心臓が異常な動きをしてる。いつもの倍以上動いていて、呼吸が上手く出来ない。仕舞には顔が火照ってきた。



「ガゼル様」
「なんだ?」
「その…」
「?」
「抱き締めて貰って宜しいでしょうか?」
「…来い」


言われた通り抱き締めてやれば、名前は私に顔を擦り寄せて抱き締め返してきた。この感覚はなんだ?味わった事のない感覚だ。また心臓が異常な動きをしだした。それと同時にずっとこのままで居たいと思えてきた。


それから暫らくして名前が、顔を出さなくなった。あいつは何をしているんだ?ダイヤモンドダストの一員と有ろう者が練習に出て来ないなんてあるまじき行為だ。


「ガっ、ガゼル様っ!」
「どうした」
「名前が!名前がっ!昨日っ、なっ亡くなりま、したっ」
「!」


クララが血相を変えて走ってきて、何事かと思えば名前が死んだ?何の冗談だ。だってこないだまでサッカーして居たじゃないか。それが死んだだと?ふざけるな。


「それが名前は、元々病気だったそうでっ」


泣き崩れそうになりながら必死に言葉を紡いでるクララの声は途中から私には届いてなかった。


あれから何日かして、名前の事を良く知った。何でも名前は心臓の持病を持っており生まれた時から寿命が決まっていたらしい。
死ぬ迄の間に好きな事をしたかったそうだ。だからあの時、私に抱き締めて欲しいと言ったのか?


「ガゼルこれは名前からの手紙です。読みなさい」
「は、い父様」


私は手紙を読んで後悔した。多分、もう二度と味わない程の後悔だろう。
悔やんでも悔やみきれない。手紙には一言、「大好きです。愛してます。私の我儘をたくさん聞いてくれて有り難うございました」と書いてあった。もう自分が死ぬと分かって残り僅かな命を削ってまでこれを書いたのか。


「ふざけるな。誰がっ。誰が勝手に死んでいいと許可した?!」


始めてその時涙が出て、止まらなくて悲しくていつまでも私は泣き続けた。名前が死んでようやく分かった。私は名前が好きだ。早く、あの時に気付いていればこんな思いはしなかったのに。


「名前っ。あ、いたい」


もう二度と逢えないと分かっていてもどうしようもなく名前に逢いたくて逢いたくて。さっきからずっと名前との記憶がフラッシュバックしてる。


(神様が居るのなら、もう一度名前に逢わせてくれ)


20100728


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