女の子みたい。
1年生の頃から存在は知っていた。端整な顔立ちで、サラサラな栗色の髪に白い肌、おまけに線の細い華奢な体でまさに女の子のような子だと思っていた。
2年生へ進級して不二君と同じクラスになった。不二君は背が伸びて声変わりもしたようだけど相変わらず女の子っぽくて可愛らしい感じだった。私が不二君に抱いていたその印象が、ガラリと変わったのはある日の体育の授業の時だった。
その日はソフトボールの試合をした。お昼を食べた後で暖かい日差しを受けて眠くなっていた私は外野に飛んできたボールを取り損なって、それを取りに男子の授業が行われているテニスコート近くまで走る羽目になってしまった。ボールをボロボロのグローブに収めて顔を上げると、丁度手前のコートに不二君が居る事に気付いた。素人の私でも分かるくらい不二君の打ったボールは人並外れて早くて、相手は反応すら出来ていない。意外だった。不二君、あんな腕細いのにあんなボール打てちゃうんだって。不二君はまた早いボールを打って、相手に手加減しろって文句を言われて謝りながら楽しそうに笑っていた。私は自分の胸がドキドキしているのに気付いた。
それからいつの間にか不二君を目で追う様になっていた。女の子っぽいという印象しかなかったはずなのに、何をしても素敵でカッコよく見えた。テレビでカッコいいアイドルを見ているような感覚だった。だから不二君の後ろの席になった時はすごく嬉しかった。一日不二君のサラサラな髪を見ていられたし、プリントが配られた時に不二君の手と私の手が触れて心の中でガッツポーズを決めるくらい舞いあがった。自習の時に近くの人と一緒にトランプをしたりして、すごく仲良くなれた。
「不二君部活頑張ってね。バイバーイ!」
「ありがとう。苗字さん気を付けて帰ってね」
また明日。そう言って不二君は部活へと向かった。不二君の言葉一つ一つが私をふんわりと暖かくしてくれる。本当にアイドルみたいだ。そこ居るだけでパッと周りが輝いて、人に幸せや希望を与えてくれる。そんな素敵なアイドルが同じクラスに居て、しかも一緒に笑っていられるなんて、それだけで幸せだなってぼんやりと考えていた。
「ねえ名前聞いた?」
「ん?」
教室に入るとすぐに友達に声を掛けられた。またどでかい芸能ニュースでもあったっけ?なんて暢気に返事をして鞄を肩から下ろすととんでもない言葉が聞こえた。
「不二君、彼女出来たんだって」
「えっ・・・・うええええ!!?」
驚いた。心底驚いた。最近テレビで連日報道されるどのニュースよりも衝撃があった。だって不二君に彼女が出来るなんて。いや、カッコいいから当然と言われれば当然だけど何だか信じられない。詳しく聞けばテニス部のマネージャーをしている先輩らしく、ぱっと頭に美人なその先輩が浮かんだ。
「美男美女カップルの誕生だわ」
「すごい絵になりそうだね」
二人でそんな話を延々としていると、不二君が教室に入ってきた。すぐに男子に囲まれて彼女の話を振られた不二君は照れくさそうに笑っていて、本当なんだと分かった。
「おはよー。おめでとう、彼女出来たんだね」
「苗字さんおはよう。ああ、うん。ありがとう。たくさん言われると思わなくて、こういうのって照れるね」
実はちょっとショックだった。けど好きなアイドルが誰かと付き合ってるとか結婚したっていう報道が流れるのと同じで一過性のものだと思っていた。
彼女が出来てから不二君は大分変ってしまった気がする。自習恒例のトランプをしている合間にちょくちょく先輩とメールをしているし、休み時間にはふらりと教室から出て行って先輩と会っているようで会話が全然できなくなってしまった。不二君と関わりの無い生活がこんなにもつまらないとは思わなかった。すぐ前の席なのにまるで月に居るかのようなそんな遠い存在に感じた。そして気付いた。私は不二君が好きなんだ。テレビで見るアイドルへ対するそれとは違う感情なんだ。けど、不二君達二人は誰が見ても仲睦まじいカップルで青学の全生徒公認の仲だし、私の恋を優先させるために二人の仲をぶち壊してやろうなんていうのはちんちくりんな私にはどう足掻いても出来ない事だった。唯一私にできる事は不二君の、二人の幸せを祈る事なんだと思った。
授業中に寝ていたのがバレて居残りを命じられた金曜日の放課後。先生に出された山の様な量の課題を半泣きになりながらなんとか終わらせ外を見ればもう日は落ちていて紺色の中にピンクが溶ける様に混ざる空が広がっていた。いつもは放課後になったらすぐ家に帰っていたしこんな時間まで学校に居たの始めてかもしれない。外が暗いから窓に教室が反射して写っているのが見えて、そこには広い教室にぽつんと私が写っていた。窓に近づいて校庭を眺める。部活動はもう終わっていて、グラウンドやテニスコートを照らすライトだけが煌々と光を放っている。ちらほらと校門へ向かっている生徒が歩いていた。その中に不二君が居た。自分でも悲しくなるくらい不二君には敏感で、街灯に照らされたあの綺麗な髪の毛をすぐに見つけてしまった。そしてその隣にはあの先輩が並んでいる。部活同じだしやっぱり帰りも一緒なんだ。暗がりのシルエットしか見えないけれど、親密にぴったりと寄り添う二人を見て胸が苦しくなった。私はこんな所で一人寂しく課題をしているのに、二人はなんであんなに素敵な時間を過ごせるの。
二人の幸せを祈って何になるんだろう。私は幸せになれないのに。幸せになれないのに。
嗚呼、いやだ。私今すごい醜い顔であの二人を睨んでいる。
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