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【骨喰藤四郎】by誠の旗

俺には記憶が無い

炎で焼け落ちたせいだと兄弟はいう。

火は…そのせいか恐ろしいものに思える。

全てを一瞬にして焼き尽くす…

記憶も刃も一瞬で…



でも、ある日突如として
ある記憶が蘇った。


『とおりゃんせ、とおりゃんせ』


それは小さな人の子が、硝子の向こうで楽しそうに歌を歌っている。そんな記憶…


『ここはどこのほそみちじゃ』

「天神様の細道じゃ」



どこか懐かしいその歌は焼け落ちて記憶の無い筈の俺の頭の中をふわふわと駆け巡る。続きを返すと人の子は目をキラキラさせながら嬉しそうにしていた。



『ちっととおしてくだしゃんせ』

「御用のないもの通しゃせぬ」


『このこの ななつの おいわいに おふだをおさめに まいります』

「行きはよいよい 帰りはこわい こわいながらも」


『「とおりゃんせ とおりゃんせ」』



1通り歌い終わると、人の子はキャッキャキャッキャと楽しそうに笑う。
その姿は、とても愛らしく思えた。

刀や槍で戦う時代は終わり長い長い退屈な展示という名の見世物に成り果てた俺の、ぽっかり空いた隙間をこの子が埋めてくれた気がした。



『おにいちゃん、きれいだね』

「名前は何ていうんだ?」

『んーとね、“ ”っていうんだよ!おにいちゃんは?』

「俺か?俺は…骨喰藤四郎」



小さな人の子は純粋無垢で、疑うという事も知らない、俺が付喪神で、神という存在の末席に位置するなんて、この子は知らない。



「“ ”、あんたがもう少し大きくなったら、また会おう。そしてその時は、俺を受け入れてくれないか?」

『うん、いいよー』



何も疑いもしない人の子と
約束だ。と硝子越しに指切りをする。
神との約束…何も知らない人の子に酷いことをしてしまっただろうか?
でも、欲しいと思ってしまった。硝子越しではなく、この手で触れたいと思ってしまった。その笑顔を俺だけに向けて欲しいと思ってしまった。


「必ず、また逢える…そんな気がする」



そう呟いた後、記憶の中の俺は静かに目を閉じた。





ーーーーーーーーーー



『ばみ…骨喰?』

「…あるじ、か」

『どうしたの?何時も以上にボーとしてる』



何処か遠くで名前を呼ばれているきがして頭をあげると、そこには主がいた。
心配そうに見つめる主にボンヤリと見つめ返す。
主の魂を見て、納得した。
納得して、クスッとらしくない微笑みを浮かべてしまう。


きょとんとした主が『骨喰?』と言葉を発する。



「いや…思い出していたんだ昔を






































“ ”との約束を」



『………え』



そう、主はあの時の…人の子だったのだ
いきなり真名を呼ばれた主は狼狽える。
何処でバレたのかと顔色を青くする。



「昔、俺の本霊の本体の展示に来たことがあるだろ?その時約束した。主、俺を受け入れてくれ」



神との約束は絶対だ…
そう耳元で囁きそのまま耳に口付けを落とす。


とおりゃんせとおりゃんせ

此処はどこの細道じゃ
天神様の細道じゃ

ちっと通して下しゃんせ
御用のないもの通しゃせぬ

この子の七つのお祝いに
お札を納めにまいります

行きはよいよい帰りはこわい
こわいながらも

とおりゃんせとおりゃんせ


なぁ主、知ってるか?この歌はな
「神隠し」の歌だ…その歌を
神の前で歌ったら…どうなるか



わかったか?

これからは、俺と“ ”との思い出を
「2人だけで」作って行こう。

焼け落ちた記憶以上の思い出を…

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