企画ドリーム | ナノ



【御手杵】by誠の旗


目を閉じれば思い出す。


俺を作り上げた刀工
五条義助

俺を所持していた
結城家や松平家

そして


目の前で燃え盛る炎

側で、鉄塊になっていく

刀派、正宗などの短刀達の


熱い、痛い、助けて



そんな声が今でも聞こえてくる


次第に溶け始める自身の刀身



思い出すだけでゾワゾワと背筋を
寒気が襲う。



「御手杵…さん?どうしたんですか?こんな時間に」
「主か、いや何…少し昔を思い出していたんだ」


背後から、声がして少し驚きながら振り返れば其処には主が立っていた。

今の時間は月が夜空で輝いている。
まぁ、夜中だな


主こそ、どうしたんだ?


そう聞くと


「んー、何となく誰かに会えそうな気がして」
「なんだそりゃ」


2人で暫く笑い合う

他愛のない話をして

さっきの、嫌な思い出なんて
忘れそうなほど幸せな時間

でも、ふと今の主が前の主と重なる。


「御手杵?」


心配そうに首を傾げる主に「すまない」と謝る。
主は首を横に振りながら、俺の頭を撫でる。


「はは、俺は撫でられるのになれてないんだけどな」
「たまにはいいじゃないですか、御手杵は何時も頑張ってます。短刀や脇差を守りながら、敵の高速槍を対処してくれたり、内番だって文句いいながらもこなしてくれてます。

ちゃんと、審神者は見てますよ。貴方の事」


西の黒田の日本号
東の松平の御手杵
そして蜻蛉切

三本合わせて三名槍

そう呼ばれたのは何時だったか


他の二本に比べて、大した逸話も無い。

他の二本は現存してるが

俺は



もう



この世に存在しない。



東京大空襲で飛ばされた焼夷弾
それによって燃える家屋
湿気対策に床下に仕舞われていた
木炭が

俺たちを溶かす


俺はきっと、他の二本に比べて劣る
主の側で、主を守るのは他の二本が良い
それが、一番の最良そんな思いが駆け巡る。


「…なんですよ、」
「?あぁ、悪い聞いていなかった」


考えている間にも主は喋っていたようだ
苦笑しながら謝ると
口を尖らせながら「えー」と拗ねる。


「現世には、御手杵のレプリカが複数存在するんです。一本だけじゃないんですよ?それって御手杵が大切にされているということだと、審神者は思うんです。だって、必要としなきゃ作らないでしょ?」


目を見開いて主を見つめる。
どっかの驚き爺じゃないが驚いた。


「それにね審神者はね、御手杵さんを必要としてるんですよ、いつもありがとう。たまには我儘とかお願い事とか言って下さいな。」


そうか、俺は主に必要とされていたのか
お世辞だったとしても、素直に嬉しい。

願い事、か

考えた事もなかったな


「んー、何でもいいのか?」
「審神者に出来ることならば!」


じゃあ


「もう少しだけ、撫でてくれないか?」
「うむ?それだけですか?」


頭を主に傾けお願いする。
主はキョトンとした顔でみてくる。


それだけで、良い

それだけでも、俺にとっては

幸せなんだ


その時は、嫌な思い出も忘れられる。


主、アンタの槍として顕現して良かった

そう、思ってる。

人の身体を得た今、昔のように、見ているだけで終わるわけにはいかない。
高速槍をやるのは、俺の役目

短刀を、脇差を、この本丸の刀達を
守ろう。

柔らかい主の掌を頭で感じながら

そう固く決意した。



「俺は刺す以外能がないけども、きっと…絶対、必ず。主を、刀達を、この本丸を守ってみせるぜ、三名槍の名に恥じないようにな」

END

<< >>

back
10


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -