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【太郎太刀】by安久夜


ある冬の日の夜もだいぶ更けたころ

「やだやだまだ呑むー!兄貴も呑もうよー!」
「次郎…いい加減にしてください」

呑むとごねる次郎を何とか部屋に置いて自室への廊下を歩いていると、主が縁側に座っているのが見えた

「主?」
「あら太郎…次郎の介抱お疲れさま」
何をなさっているのかと声をかけると主は振り向いて微笑んだ

「主は何を?」
「星を見ていたのよ。今日はとても綺麗な星空だから」
「星…ああ、確かに」
主のおっしゃる通り、溢れんばかりの星が空に散らばっている
「ね?ちょっとだけと思ってたんだけどいつの間にか結構時間経っちゃってたみたいね」

「まだ夜は冷えます、早目に部屋に戻った方がいいのでは?」
「ええそうね……あ!」
「!…何か?」
「流れ星!お願い事…ああもう消えちゃったわ…ホントに流れ星って一瞬よね」

「…もし言えたなら、何と願ったのですか?」

シュンとしてしまった主の顔を見て思わず問いかけていた

「そうねえ…これからの戦いでみんなが怪我を負いませんように、かしらね」
「主自身の事はよろしいのですか?」

こういう時、人は自分の事を願うのではないかと不思議に思い、問いかけた

「私は今の生活に満足しているもの。政府から色々言われることもあるけど、みんながいて私を主と認めてくれてる、私に笑ってくれる、そんな毎日が幸せなのよ。これ以上なんてバチが当たるわ」

そう言って微笑む主を見て、自然と自分の頬が緩むのがわかった

「…そうですか」

そんな私を見て更に笑みを深める主

「私は充分幸せだから、私に幸せをくれるみんなが痛い思いしませんように、みんなが幸せになれますようにってね」


毎日刀剣である私たちを生きる者として接してくれる主、そんな主にどの刀剣も自らの意思で従い、そして慕っている…私も例外ではない

…普段は何も言えませんが…少し、星の力を借りて…

「これが…」

ポツリと呟いた私の声に主が私を見上げる

「これが幸せという感情の正解なのかはわかりませんが…私も今が幸せと思います」

恐らく次郎辺りが聞けば「もうちょっと良い事言えないの?」等と煩いでしょうが、私にはこれが…
「太郎」

優しい声に考えることを止め、逸らしていた視線を主に向けると、声と同じくらい優しい顔で私を見ていた

「ありがとう、太郎にそう言ってもらえて嬉しいわ…そうね、やっぱりお願い変えるわ」

そう言ってもう一度星を見上げると

「私たちみんなでもっと幸せになれますように」
と手を合わせた
そんな主を見て、私も同じように手を合わせ、同じ願いをする
仮にも付喪神である者がこのような事をするのは少し違和感がありますが…偶にはいいでしょう


手を合わせるのを終えると、私たちはまたしばらく星を眺めていた…


END

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