【一期一振】by誠の旗 ![](//static.nanos.jp/upload/tmpimg/62894/101.gif)
「主殿、おはようございます。今日は、良い天気ですよ。主殿は、お寝坊さんですな。全く、困った御人だ。」
とある本丸の地下の座敷牢
言葉を発したのは、一期一振
かつて、豊臣秀吉の愛刀とされた刀であり、大阪夏の陣で城と共に焼け、徳川の手に渡り再刃され、天皇家へ献上された刀。
横たわるのは、彼の主でもある
審神者である。
口をパクパクさせるが、声が出せないようで
泣き腫らした顔で、一期一振を見やる。
「おや?声が出せなくなりましたか?確かにあれだけ叫ばれていたら、人の子の声帯は壊れてしまいますね。何度も何度も、もう此処には私と主殿の二人しかおらぬと申したというのに。聞き分けのない。」
憐れむような表情で、主を見下ろす一期一振。
その、本丸はかつて。短刀達の声が響き合い。悪戯を仕掛けた、鶴丸国永をへし切長谷部が、躍起になり追いかけ回していた。賑やかで、騒がしい。そんな所だった。
一期一振は、結構早めに顕現した。
弟達を迎える。それが、彼の役目だった。
寂しく、静かな…この本丸は現在、二人の霊力しかない。
何故?どうして?
そんな思いを主である審神者は繰り返し繰り返し考える。
一期一振は以前と違いどこか、欲にまみれた。
大人と同じ雰囲気を醸し出す。
「どうされましたか?クスッ…あぁ、やはり貴方は愛らしい。いつ、みても…」
そっと、審神者の手を引き後ろから抱き寄せる。
審神者は、突然の事に身動きがとれず。一期一振のなすがままにされる。
その時、審神者は
ある事にきづいた。一期一振の手が微かに震えていたのだ。
一期一振を見ようと身体を翻そうとするも彼はそれを許さない。
「…私は、とんでもない事を…とんでもない罪を犯しました。貴方を愛するが故に…貴方に誰も触れてほしくない。貴方の笑顔を他の誰にも見せたくない。
私だけを見ていてほしい、その瞳に私だけを。貴方を独り占めしたかった。
私はその欲に負けた、負けてしまった。自分自身の中で何かが壊れてしまった。
仲間を、弟達を壊した。貴方を此処に閉じ込めた。」
申し訳ございません。
と掠れた声が響いた。
抱き寄せる手に力が込められ。
微かに揺れる一期一振の身体。
彼は泣いていた。
審神者は、彼が泣く姿を見たことが無かった。
彼は、いつも完璧だった。兄としても、生活も、戦闘時も。非の打ち所なんて見当たらなかった。
そんな彼が、泣いている。
消えてなくなってしまいそうな、そんな彼を
審神者は何故か、愛らしく思えてしまう。
それはきっと、もう審神者自身も壊れてしまっているからなのかもしれない。
確かに彼の犯した罪は簡単に拭えるものではない。
一期一振自身もう闇堕ち寸前だろう。
欲にまみれ、仲間を壊したとしても
やはり、彼には辛かっただろう。
だって彼は、審神者だけを愛していた訳ではないから
審神者を第一として置いても、仲間や弟達が好きで好きで仕方ない付喪神だったはずなのだから
でなければ、こんな風に後悔しないだろう。
「ぃ…ち…ご…ねぇ、いち…ご」
審神者は、震える彼の手をパシパシと叩く。
そして、顔を向き合わせ
ニコリと微笑む。
「ひどい…かお…。まえの、めも…きれいだった…けど。あかい…めも…きれい」
一期一振の涙で濡れた頬を両手で挟み、顔を近くに寄せ目を合わす。
そこには、闇堕ちした証拠である。赤い目があった。
「…おかした、罪は…きえない。このまま、此処にいても、政府は貴方を排除しようと…する…それは、嫌だ。いやだよ、いちご
だから、お願い。行こう?一緒に、ね?
いちご
貴方は、一人じゃない。
貴方の罪は、主である私の罪。
この罪は一生きえない
だけど、
二人なら乗り越えられる。そうでしょ?」
最初は途切れ途切れだった審神者の声は次第にはっきりと出るようになり
一期一振はただただひたすら涙を流す。
申し訳ございませんと、何度も連呼する。
そんな彼の背中を優しく撫でる審神者
「そろそろ、行きましょう。でないと政府の者が来てしまう。」
「はい、愛しき主殿…貴方の為ならば、何処までもお供いたします。」
手を繋ぎ、二人歩き出す夕日の中
その後、彼らを見た者はただ一人としていない。
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