企画ドリーム | ナノ



【鶴丸国永】by柊歌


今日は訳あって、俺は主に頼まれて万屋に来ている。
なにやらお鶴はちょっと出てってて!と背を押されながら言われてしまったからな。
普段は俺が驚かせる側なんだが、主の慌てる姿はどこか新鮮でな。驚かされたから大人しく万屋で時間を潰しているわけさ。
……とは言っても長い時間主から目を離すのは頂けない。仲間と言えど他の刀剣男士と話しているのを見ると今にも狂いだしそうになる。
そんな焦りを胸に、俺は主に似合う彼岸の花をあしらったかんざしを見繕うと早々に万屋を出た。
主から持たされたスマートホンとやらにも帰ってきていいという旨の連絡が届いていた。
それを見、俺は足取り軽く本丸への帰路についた。

スマホの画面を見つめ、しっかりと送られたことを確認し、ポケットにしまう。
私はうきうきと心を弾ませながら部屋を見渡した。
「うーん、これでいいかな!お鶴喜んでくれるかなぁ……案外忘れてたりして?」
そんなことを独りごちながらくすくすと笑う。
「ねえ主さん、頼まれたの作っといたけどこれでいいのかい?」
後ろから声をかけられて若干驚くもやっぱり嬉しさの方が大きくて笑顔でこたえる。
「うわぁ!?あ、光忠か。ああそうだ、いくら料理できるって言ったってケーキ作りなんかさせて悪いな」
両の手を合わせて謝るとみっちゃんはおかしそうにくすくすと笑う。
「いいんだよ別に。僕も頼られるのは嬉しいんだから」
「そうは言ってもな…絶対今度お礼するから」
そう言うとみっちゃんはぽんぽんと頭を撫でてくれる。
そんな私たちの横をからちゃんが通り過ぎようとした時にみっちゃんはわざと大きめの声で私に教えた。
「あ、そうそう。上のクリームとデコレーションはからちゃんがやったんだよ。くっ○パッドを見ながら頑張ってたんだ」
「あ、そうなのか?」
当然その声はからちゃんの耳までしっかり届いていたらしくピタッと足を止めると
「光忠、それは言うなと言っただろう」
私たちの方を向くでもなくそういった。
「まあまあからちゃん、食べてもらう人に誰が作ったか教えたっていいじゃないか。あ、出来てすぐ持ってきたから厨そのままなんだ。それじゃあ主さん、またね」
面白そうに笑いをこらえながらさっさと逃げ去っていくみっちゃんを2人で静かに見届けると
「作ったのは光忠だ。俺はただ上に白いものと苺を乗せただけだ」
からちゃんはそう言って歩き去って行こうとした。
私はそんなからちゃんの背にかけより
「大倶利伽羅、ありがとう。美味しくいただくからな」
とお礼を告げた。返ってきたのは
「ふん、俺は馴れ合うつもりで作ったわけじゃない…」
っていうおなじみの言葉だった。

帰り際に縁側で目の当たりにした光景に言いようのない苛立ちをおしかくし、主にひっそりと後ろから近寄ると耳元で声を出す。
「…わっ」
「うああ!?」
主は面白いほどに高く飛び上がると振り向きざまに拳を突き出してくる。
「おっと」
ぱしっとその手首を掴むと俺を認識した主はハッとしたような顔をした。
「帰ったぜ。主」
「あ、お、お鶴か…もー、ビックリさせないでよ!」
そんな主の反応が俺には愛おしくて、その反面腹立たしくて、衝動を抑えきれずにそのままぐいっと掴んだ手首を引っぱり主を抱き寄せる。……爽やかに香る髪に微かに混じった甘い匂いに心が乱される。表には、出さないが。
「わ、お、お鶴?ど、どうしたの?」
驚きながらも抱きしめ返す主に率直な気持ちを伝える。 普段主は幼い見た目の為にできる限り背伸びをして口調や呼び名を意識して変えている。しかし俺に対してだけはいつもお鶴と呼んでくれる。
「いや、驚かしがいのある主で嬉しくて愛おしかったからな。土産話でもききたいか?」
そう問いかけるといつもと変わらず
「ききたい!」
と明るい声色で俺に話をねだる。
「まあ、ただ万屋に行ってきただけだからな。土産話なんてほどのものはないけどな」
そう告げると一転むすくれたような声で
「なら話聞くか?なんてきかないでよ」
と抱き締める力を強めることで俺に不満を訴えてくる。
「はは、まあそう怒るなって。話はないが、土産自体はあるんだからな」
ぽんぽんと髪を梳くように撫でていた手を止め、緩く主の髪を持ち上げるとしゃら…とかんざしをさしてやる。
「うん?お鶴何してるの?」
「君の部屋の鏡で確認してみるといい。さて、土産も渡したことだし俺は部屋に戻るとするかね」
俺は主への抱擁を解きくるりと踵を返そうとした。するとぐいっと羽織の頭巾の部分を引っ張られる。
「ま、まって」
「おっと、危ないじゃないか」
「今日は大事な話があるの。部屋に来て」
主の顔を見ればなにやら微笑んでいるが俺には何がなんだかわからない。
「話か?…わかった」
主に手を引っぱられて部屋に入れると、主は振り向いて両手を広げる。
「じゃーん!お鶴顕現記念!1周年!」
そういわれ、俺はぽかんと呆気に取られると、今度は笑ってしまった。
「はっはは!こりゃあ驚いた!しかし、そうか、1年か」
後半そう呟くと主は下から俺を覗き込んできた。
「…やっぱり、お鶴忘れてたでしょ」
忘れていたのとは、少し違うんだがな。忘れられる筈がないだろう。主との出会いを
「それは違うぜ。忘れていた訳じゃあない。ただ、1年という時の尺度が俺達と主とでは違うからさ」
そう言うときょとんとして俺を見つめる。
「いきなり何言ってるの。わかりやすいように説明プリーズ」
「主も変に横文字を使うのはやめてくれないか。俺がいかに好奇心旺盛とはいえ英語とやらには強いわけじゃないんだ」
「あ、ごめん。で、説明してください」
「改めて言われるのもなぁ。簡単な話さ。主には「もう1年」なんだろうが、俺達には、、、付喪神や物の怪にしたら「まだ1年」、もっと言えば「昨日」と同じくらいの感覚なんだ」
「つまり?」
「つまり、俺が顕現したのがまるで昨日のようだってことさ」
そう簡潔に言うと主は悲しそうに顔を伏せた。
「?どうしたんだ?」
「ん、いや、なんでもない…。そ、それより、ケーキ食べよっか!みっちゃんとからちゃんが作ってくれたんだ!」
そう言って俺を座らせると自身も横に座る。
「はい、あーん」
さらっとフォークを差し出す主にぎょっとして後ずさる。
「おいおい主。俺は赤子とは違うんだ。自分で食べれるぜ?」
「……。」
返ってきたのは無言。さっきは焦りからフォークしか見ていなかったがそれを差し出す主は長い髪の下、顔を真っ赤にしていた。
「……あ、あの、手の行き場がないからせめてこの一口だけでもたべて……」
前髪から微かに覗く瞳を左右に泳がせる主は暴力的な程に愛らしく、ぱくりと手首を掴んでフォークに刺さったいちごと共にケーキを食べる。
「んー、さすが光坊だな。料理もできれば菓子作りもお手の物ってか。ほら、君も俺に食わせただけで自身でくってないだろう?」
もぐもぐと感想を述べながら咀嚼すると主の手からフォークをひったくり同じようにケーキを刺して差し出す。
「へ?」
頓狂な声を出すとすかさずその小さな口にケーキを放る。
「むぐっ……あ、美味しい」
パァっと花のように笑顔を髪の下とはいえ咲かすのその様子に再び心がかき乱される。美味しかったが、主のこの笑顔を生み出したのが光坊といえ、許しがたい。独占したい、そう思った。
「だよな。…俺も光坊に料理を教わってみるか」
努めて冷静にそう言うと主は首をかしげて、笑った。
「お鶴が?なんで?あ、でもお鶴が料理覚えたら厨房の主戦力が増えるね!それいいかも!」
そう言う主を再び俺は抱きしめた。手折ってしまわないように、けれどこの狂おしい思い全てを吐き出すように。できる限り、強く、抱きしめた。
「うん?おつるー?」
「…あぁ、そうだ。歌仙に洗濯も教わろう」
「おつる、およめさん修行でもするつもりなの?」
どこか舌足らずな言葉は酔いを感じさせた。光坊のやつケーキに酒を入れたな。よしよしと主の後頭部を髪が崩れないように撫でながら乾いた笑いを零す。
「はは、まあ、俺は男だからお婿になる筈なんだがなぁ」
「……。」
俺の呟きに返答はなく恐る恐る頭を持ち上げて覗き込むとそこには赤らんだ顔で寝入る主の姿があった。
「君は少々どころじゃなく大分俺に油断しすぎていると思うんだが……まあ、ほかの誰にもこんな緩みきった顔を見せていないならよしとするか」
聞こえているはずもない主に対して小言を言いながら寝床へと運ぶ。
そこで、扉をノックする音が聞こえた。
「あ、主さん?僕だけど……実はケーキにお酒入っちゃってて…」
その声に俺は咄嗟に抜いた刀を突き立てる。
貫通まではしなかったようだが扉越しにごくりと生唾を飲み込んだ声が聞こえた。
「つ、鶴さん…?」
「あぁ、悪いなぁ光坊。主は今俺と逢瀬の最中なんだ。ここは空気を読むってものだろ?」
俺自身でも驚きの低い声でまるで威嚇するかのように扉越しに伝える。
「そ、そっか。鶴さんがいるなら大丈夫だねっ。それじゃあ僕は失礼するよ!」
俺の声を聞くやいなやすばやく廊下を戻っていく音が聞こえた。
「んー、おつる?」
そう声をかけられ、静かに刀身を突き刺さった戸から引き抜くとそのまま主の元にもどる。
「俺を呼んだかな?」
「あ、まだいたんだー。わたし寝てた?」
布団からむくりと身を起こす主を見て俺は思わずからかってしまう。
「あぁ、そりゃもうぐっすりとな。俺の頭巾にヨダレが垂れるくらいにはな」
「へ!?え、え、うそ…恥ずかしすぎる…」
主はそう言うなりすっぽりと布団にくるまってしまった。
「まあ、ヨダレは冗談だけどな!だから顔を出してくれないか?」
出来る限り普段の俺を装って明るく、優しく、声をかける。
「……ほんとに、うそ?」
もぞりと出てきた顔に対し俺は続ける。
「あぁ、嘘さ。なんなら見てみるか?」
そう言って頭巾を見せてやると途端にふにゃりと笑う。酔いが覚めていないんだろう。
「ほんとおつるは人がわるいんだからー」
そうけらけら笑う主の目前をヒュッと銀の一線がかける。
「……え?」
呆けた主の目の前にはパラリと散った己の前髪。微かに血がパタタッと布団に広がる。
「え!?わあ!?これ私の前髪!?お鶴一体何してくれてるの!?ていうか血も流れてるし!?」
俺には自身の感情の制御が出来なくなっていた。
今日はあまりにも心を乱されすぎた。普段なら問題なかったというのに、嬉しさと愛おしさがあまりにも多く、それと比例して嫉妬心までもが膨れ上がった。
「主」
「な、なに?お鶴」
「俺は君が愛おしくてしょうがない」
そう告げると主はふむ、と考え込んだ後バッと顔を上げて俺にまくし立てる。
「……待って!?愛おしい人にする事じゃないよね!?」
「そ、それは手が滑ったんだ」
自身の前髪と額の傷を指さしながら怒る主の姿にうっ、と息を詰まらせながら弁明する。
「そんな手の滑り方があってたまるかぁ!!そもそもなんで抜刀してるの!!」
「?それは光坊のやつが部屋に来たからだな」
俺との逢瀬の時間を邪魔されてしまったんだ。怒ることの何が悪い。そう思って答えれば主は驚きの余り顎が外れんばかりに大口を開ける。
「そんなことで!?」
「そんなこと?…俺はな主。君と出会ってから1度も君との出会いを忘れたことはない。ただ、俺は君が愛おしすぎるあまり、他の奴が憎くて仕方なくなる」
自分でも何を言っているのかわからなくなってきたが、この気持ちを伝えずにはいられなかった。
「……愛おしいって…」
いてもたっても居られなくて俺は主を押し倒した。
「わっ!?」
主の頭のほぼ真横に刀をトスっと突き刺す。
「!?」
「いい加減酔いも覚めてきたみたいだな。君はさっきの話を覚えてるか?」
「え……と、花嫁修業の話?」
「ああ、そうさ。俺が光坊に料理を教わるのも、歌仙に洗濯を教わるのも、俺が君のことをしたいからさ」
「へ…?」
「他の奴が作ったご飯を君が食べるのが許せない。他の奴が見繕い洗う衣装が君を飾るのも許せない」
「えと、それは私に死ねと…?」
そう言われ刀をついていない方の左手でそっと主の頬を撫でる。
「そうは言わないさ。俺たちと違って君は正真正銘の人間だ。食べなかったら死ぬことくらい分かってるさ」
そう告げれば下から安堵したような吐息が漏れた。
「だから、俺が君の全てを攫う時、その時までこの傷とその髪は俺が君を攫うと決めた証として髪も傷も元通りになりかける度に斬りつける。そのかんざしも外すことは許さない」

その言葉とともに怪しく微笑むお鶴は私の額の傷をそっと撫でた。
きっとこれはお鶴から私に初めて出した"誓約"。
拒絶されることを恐れながらもそれでも私に狂っているほどの気持ちを伝えてくれている。
「痛いのは嫌だなぁ…」
場違いにもそんな間の抜けた返答を返すとお鶴は目を丸くして私を見つめる。
「……かんざしは何時如何なる時もつけていてくれるか?」
おずおずとそう尋ねるお鶴にふっと気が抜けた。
「もちろん。お鶴が送ってくれたものだもん。外さないでちゃんとつけておくから」
「……いきなり斬りつけて悪かった。…その、乱か蜂須賀か堀川に教わるから、今後は俺に君の髪を整えさせてくれないか?」
お鶴は頬を染めながら私の髪をひと房口元に引き寄せる。
「ほんとだよー。っていうか、お鶴私をダメ人間にするつもり?そんなにお世話されちゃったらなんにも出来なくなっちゃう」
「俺が、そうしたいんだ。君は俺が与える驚きにビックリしてくれればそれだけでいい」
「じゃあ、1年経ったけどこれからも、というか今後ずーっとよろしくお願いしてもいいの?」
もともと顕現1年記念だったのに何がどう転がったのかこんなことになってしまった。
お鶴の気持ちを汲んだ上で問いかける。

「もちろんだ。今後も君に最高の驚きを届けてやるからな!覚悟しておいてくれ!」
そう満面の笑みで言いながらお鶴は刀を鞘に戻す。
そういえば横に突き刺されていたのをすっかり忘れてた。だって、あまりにもわたしに微笑むお鶴が綺麗すぎたから。

「じゃあ、これからもよろしくね?お鶴」

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