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【薬研藤四郎】by安久夜

「大将!!」
ー今まで体験したことのない痛みと共に意識が遠くなる感覚が来たーそして…誰よりも安心できる声が聞こえたような気がしたー


「…ん、あれ…?ここ、は?」
目を開けると何とも不思議な空間にいた。
暑くもなく、寒くもなく、上も下もわからない、立っているのか寝そべっているのかもわからない
「夢…?にしても随分とハッキリした…」
そもそも私、何してたんだっけ?
えっと…確かいつも通り審神者の仕事終わらせて、資源不足だったから遠征部隊送り出して、「今回の遠征は人数多目に行ってもらったからなんか寂しいねー」って近侍の薬研と話してて…そしたら急に何かが壊れるようなメキメキ、とかバキッて音が聞こえて…時間遡行軍…が…

「!!そうだ…時間遡行軍!みんなは!?本丸は!?」
慌てて辺りを見回してみても何も見えない

「どういう事…?何で私こんな所に「大将…?」!薬研!!」
聞こえた声に振り返ると驚いたような顔をした薬研がいた

「薬研…よかった、無事だったのね!」
「あ、ああ…大将、傷は?」
「傷…?何のこと…あ…」

そうだ、時間遡行軍が本丸にまで襲ってきて、みんな必死に闘ってくれてた時に私の所に敵の槍が来て…近くにいた薬研は大太刀を相手にしてて、私は結界を貼り直すのに夢中で気づかなくてそのまま槍に…

「私、どうして生きてるの…?それに他のみんなは?本丸は?ここはどこ?ねえ、薬研!」
「落ち着け大将!…ぜんぶ説明する」

薬研は真っ直ぐに私を見た。この綺麗な藤色の目はいつも私を安心させてくれる…
幾分か落ち着いた私を見て、薬研は話し始めた

「まず、大将のいるここは人界と神界の狭間だ。ここは人界とは違って神の気と人の気が混ざり合った空間なんだ。だから大将の傷は神の気によって癒された。ちなみに大将は虫の息だったが生きてはいる状態でここに来て、傷が治ったから普通に話せて生きている。まあ、他にも話さなきゃいけない事はあるが後で…ここまではいいか?」
「え、ええ、大丈夫」

この時点で少し信じられなかったが、現に傷は癒えて私は生きているから信じるしかない…

「次、大将の本丸だが、半壊状態だが無事だ。とはいえかなり壊されたから住むってなると無理があるがな。それと他のみんなだが…無事だ。重症を負った者がほとんどだが、大将がバランス良く全員を戦に出したりしてくれてたからな、破壊は1人もいない。…って、大将?大丈夫か!?」
「そ、そうなの…ぶじ、なのね」

全員が無事と聞いて一気に力が抜けた
出て来てくれたみんなを大事にしていたのだ。誰か1人でも折れていたら、私だけじゃなくみんなが悲しむ

そんな私を薬研が優しく、でも悲しそうな顔で見た

「たく、自分が1番死にそうな傷負ったくせに周りの心配か?大将らしいがな…」
「ご、ごめんなさい…!でも本当に安心したのよ、みんな無事で、本丸もなんとか無事で私も生きてる。それならこれからもみんなと一緒にいられるも、の…」

そういった私の腕を薬研は急に引っ張るとそのまま抱きしめた

「や、薬研?どうし「すまない、大将っ」…え?」
「大将、大将は…

もう、あの本丸には戻れないんだっ…」

どういう…こと…?何を言っているの…?

「あの本丸にだけじゃない、もう人界に戻ることも恐らく不可能なんだっ」
「なんで…だって私生きてるって、みんなも無事って」
「大将、あんたは本当なら生きられなかったんだ。人界と神界の狭間に連れて来て、血は止まったが心の臓の動きは今にも止まりそうだった…そこで俺が神気を直接大将の体内に送り込んだんだ、それしか大将を救う方法がなかったんだ!」
「薬研…」
「俺の神気を直接取り込んだ大将はもう人の身じゃない、俺の眷属だ…人と神の間であるから不安定な存在だ。そんな大将が人界に行けば身体は保たせられない。大将の身体に負担にならないよう、ゆっくり傷を治せる狭間に連れて来たが、ここにも長くはいられないから俺の神域に連れて行くしかないんだ…軽蔑されても何も言えない、だけど俺はっ俺っちは、どうしてもあんたを失いたくなかったんだ…」

今にも泣きそうな薬研の声と、震える私を抱きしめている腕の感覚で本当に私を救いたかったのだと、顔は見えなくても感じ取ることができた。そんな彼を、どうして軽蔑できようか?
未だに私を離さない薬研を私はしっかりと、でも優しく抱きしめた

「薬研、そんなに自分を責めないで」
「たい、しょ…?」
「確かにもうみんなと会えないだろう事実は悲しいわ。大変だったけどあんなにも楽しい毎日を失うんだもの。

でもね、私は自分の神気を使ってまで私を救ってくれた薬研を責めたり、ましてや軽蔑なんてしないわ」
「…………」

黙ってしまった薬研には何も言わず、私は自分の話を続けた

「生きていれば、良い事も悪い事もあるわ。私にとって槍に刺されて、みんなともう会えなくなったのは悪い事だわ。でも薬研が私を生かしてくれた、これは良い事でしかないわ。だから薬研、私が生きるために、私をあなたの神域に連れていってくれない?」

そこまで話すとようやく薬研は私をゆっくりと離した

「大将がどうしてもと望むなら、死を覚悟で最後に本丸に行くのも可能だ…だが大将が生きると言うなら、本当に連れて行くぞ?みんなにも大将を神域に連れて行く可能性は話してあるが、もう戻れないんだ、本当にいいのか?」

ー…ああもう本当に、どこまでも私を優先する彼が愛おしくて仕方ないー

「薬研、私は生きたいわ。みんなに伝えてくれてあるなら安心だもの。それにね、あなたが一緒ならきっと大丈夫って思えるの」
「!…ははっ、大将には敵わねえな」

先ほどとは変わっていつもの薬研の笑顔がそこには見えた

「わかった、神域に連れて行く。…惚れた女を、あんたを今度こそ守る」
「惚れ…!?」

聞き逃しそうになるくらいさらっと言われた言葉を聞き返す暇もなく、私は薬研に抱き上げられた

「聞きたいなら後からいくらでも聞かせてやる。時間はたっぷりあるから、な?」

意地悪く笑う彼も彼だが、そんな彼に少し呆れつつも抱きつく私も相当彼に溺れているらしい…

「わかったわ、楽しみにしてる」
「ああ、じゃあ行くぜ…!」

その言葉を最後に私たちはその場から消えた
人界と神界の狭間という空間は、最初から何もいなかったように、また静かな空間に戻っていった

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