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【髭切】by柊歌


「やあ、主」
休憩がてらに縁側で紅茶をすすっているとおもむろに声をかけられる。
「ん?あぁ、雑草切か」
「あはは、酷いなぁ。いくら僕が他の刀剣男士より畑仕事がうまいからって雑草切はないよ〜」
髭切は笑いながらそういう。
「ふん、極めたら次の名前が雑草切になったり?とか、言っているからだろう」
そう鼻で笑って返してやれば髭切は少しばかり困った顔をして頬をかいた。
「うーん、自分で言うのと人に言われるとではねぇ…」
そんな髭切を面白く眺めながら私は笑いながら三枚重ねにした座布団の1枚を横におきぽふぽふと叩く。
「まあまあ、仕事が終わったところなのだろう?隣に座れ」
「わざわざ座布団まで…用意周到だねぇ」
そう言いながらも髭切はよいしょっと隣に腰掛けてくれる。
「用意周到とはなんだ。気が利くと言ってくれ。労おうとしてやってるのに」
ついむすくれた顔で言うと、髭切はぽかんとした後笑い出した。
「っふふ、あはは、そうか。ならお言葉に甘えようか。でも僕でいいのかい?他にも内番の子はいるだろう?名前が…なんだったかな、ほら、弟とかさ」
名前を思い出せないけれど弟を出すあたり弟好きなのかなんというか……
「いや、君がいいんだ。我が本丸の太刀の中で一番はじめに顕現したからな」
そう言いながらポットの紅茶を湯のみに注いで差し出すと、髭切も受け取ってくれる。
「あぁ、そういえば僕が1番だったんだっけ?初めてきた時にはびっくりしたなぁ…小さい子達ばっかりでさ。おかげで僕がずっと惣領をさせられてたね」
髭切は一瞬きょとんとした後懐かしそうに目を細めながら茶をすすった。
「ん、これは西洋のお茶だね。主の入れてくれるお茶はいつも美味しいね。名前は、覚えられないけど…」
後半申し訳なさげになっていく髭切を見てついおかしくなって笑ってしまう。
「なんだ、散々他の刀剣男士の名前を覚えられないでいるのに、茶の名前を覚えようとしていたのか?」
その言葉に髭切はむっとした顔をした。
「酷いなぁ。僕だって覚えようとはしているんだよ?」
ムキになる髭切が愛おしくてついからかってしまう。
「なんだ、なら私の真名を覚えているんだろうな?」
そう悪戯っぽく聞いてやれば途端にうっと声をつまらせ左右に目を泳がせたあと恐る恐るぽつりと私の名を呼ぶ。
神のくせに、真名を呼べばどうなるか知っているくせに。私はそれを、利用した。


ついに、問われてしまった。そうなってしまうことを自分は望んでいたのに。
「……幸(こう)、だったかな」
僕がそう今代の主の真名を言うと世界がぐにゃりと歪んだ。
ああ、遂にやってしまったんだ。神隠し、だっけ?一介の付喪神である僕にも出来ちゃうんだ。
そう認識した時には全てが終わった時だった。
「髭切?」
主に声かけられてハッと我を取り戻す。
「え、主?意識、あるの?」
たしか神隠しにあった人間は神の意のままになって自我が失われるってきいたことがあったけど
「何を言ってるんだ。当たり前だろう?」
主は特に驚いた様子を見せるでもなくにんまりと微笑んだ。
どうして主は笑っていられるのだろう?
「ずっと、ずっとこの時を待っていたんだ」
唐突に発せられたセリフに困惑する。
「え?」
「私は今まで、髭切とこうなりたかった。他の刀剣男士達には心から済まないと思っているが、しかし…此度の戦でボロボロになった君を見て、全てが、嫌になってしまったんだ」
そう言う主の頬には涙が伝っていた。
「え、主どうしてないてるんだい?僕のしたこと、分かってる?」
困惑のあまり僕の方が泣き出しそうになりながら聞き返す。
「当たり前だ。神隠しだろう?そのくらい私にだってわかるさ」
主は自分の涙を拭いながらどこか影のある微笑みを浮かべた。
そして、僕に、抱きついた。
「すまない。君の、名を覚えない癖を、利用するようなことをして。ただ、信じてみたかったんだ。私の真名は覚えていてくれていると。神隠しをさせたのは私だ。本当にすまない」
謝りながらとつとつと気持ちを伝える主を僕は抱き締め返した。
「僕の方こそ、本当は謝るべきなんだよ。本当は、弟…膝丸のことだってしっかり覚えてる。他の刀剣男士の名前も。いつになるか分からなかったけど、主が僕を試して名前を呼ばせようとするんじゃないかって、期待してたんだ。嫉妬は人を鬼にするって言ったけど、本当の鬼は僕だった。主と話す刀剣男士に嫉妬してしまってたんだ。髭切…別名鬼切の名が笑っちゃうよね。自身が鬼になっちゃうなんてさ」
そんな風にいう僕を、主は黙って聞いてくれた。はじめに泣いていたのは主の方なのに今ではすっかり逆だ。

「なあ、髭切。神隠しされたら戻れないって聞くが、どうなんだ?」
落ち着いた頃そう髭切に聞いてみると困った顔をして頬をかく。
「うーん、なにせ神隠しなんて僕も初めてだからなぁ。よくわからないや」
そう話しながら2人で顔を見合わせて笑い合う。

「現世に戻れるまで、2人で共に過ごそうか」

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