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【一期一振】by誠の旗

出会いはいつだっただろうか

気になってしまったのはいつ?

好いているという事に気づいたのは?






その気持ちに気づいてからは歯止めが効かなくなってしまっていた。

弟達の手前、自重しなくてはと考える一方

仲間である筈の刀剣達が主と楽しく談笑しているだけでハラワタが煮えくり返る思いだった。


「…俺は、狂ってるのだろうか」


ポツリと一人縁側で空に浮かぶ月を見上げて呟いた。
それは何時だったか。

もう、覚えていない

スっ…ととある一室の障子を開けると其処には審神者用の端末を必死に操作している主がいた。

焦った表情の主は私の姿を見て驚きの目を向けた。


「そんなに、驚きましたか?主殿

弟思いの、仲間思いの私が全てを捨ててまで主を我が手中に納めるとは、想像できませんでしたか?

でも、それは貴方達人間が植え付けた勝手な妄想でしょう?」


クスクスと笑いながら目は主を見つめる。
主の端末を持った手が震え始めた。

私の元の主は、百姓から天下を目論んだ猿。人の懐に入り、信頼を得る。しかし、その裏では真っ黒な感情を抱える。


「弟達は、好きです。大切です。かけがえのない守るべき存在です。

でも、私は貴方を神隠しした。それはどういう事だと思います?

…賢い貴方ならわかりますよね?」


ゆっくりゆっくり主を壁まで追い詰め、所謂壁ドンとやらで怯える主をとらえる。

主の首筋に指を這わせ無理矢理こちらを向かす。

クスリと笑ってから


「愛らしい人の子…喜ぶ顔も笑う顔も困った顔も泣きそうで怯えた今の表情も…全てが愛おしい…好いております。誰よりも何よりも一番に貴方を想う。」


優しく、なるべく優しく口付けを額に落とす。出来るならばその唇を奪ってしまいたい、その身体を貪りたい、そんな衝動を抑え込む


「いつか、貴方が私を望む時が来たら…貴方が貴方の全てを私に差し出すと決めたら…その時は遠慮なんてしませんよ…
これからずっと永遠に一緒ですから、いくらでも待ちます。」


ゆっくりとした動作で主を抱きしめる。
愛おしい愛おしい人の子。




でも本当は、神隠しなんてするつもりなど無かった。
真っ黒い感情はあったものの、表に出すつもりなど無かった。
主と仲間と弟達と楽しくすごせるそれだけで良かった。

でも、刀剣男士の間で

とあるゲームが始まってしまった。

それは


『誰が主を我がものに出来るか』


という勝負。

勿論、神隠しを誰ができるかというものだ。
主は優しかった、だからこそ
皆に好かれた。

それがいけなかった。

私が抱く思いをしているのは
私だけでは無かったという事だ。

焦った。
このままでは主が奪われてしまう。
二度と会えなくなってしまう。


それは

兄弟云々仲間云々を考える余地など考えさせてくれぬ事柄だった。

皆の目が本気だったから


「主殿…貴方の幸せを奪う私を許して下さい。」


神隠し…それは


愛する人と永遠にいられる喜びを得られる一方で


全てを捨て奪う…事なり


貴方を手に入れた、でも私は貴方を失うのが怖くて弟達を仲間を出し抜いて、捨てて

貴方という存在を
貴方の生活、輪廻を
全て奪った。


頬を温かい液体が流れた。

「あぁ、これが…涙というものですか。心を持つということは…人間とは…実に面倒臭い生き物ですな」



『愛してます』

主に対してか、兄弟に対してか
そう呟いた言葉は、神域の空気にゆっくりと溶けて消えていった。

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