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広い御座敷に4人の女性と1人の男性、そして幼い女の子と赤ん坊がいた。
御座敷の真ん中には敷かれている布団の上で女性が浅い呼吸の中、何かを伝えようとしていた。
「沙以…
我が国の一番大きな深い未開の森
そこへ踏み入ってはなりませぬ。
万が一入ってしまい、彼奴(アヤツ)に出会ってしまったら…
決して目をあわせてはなりませぬ。
…魅入られてしまいますから…」
「ははうえ?きゅうにどうしたのです?」
まだ3歳になったばかりの沙以姫は現状を飲み込めてはいないようだ
「奥方様…沙以姫様はまだ幼く、お話しを理解できておられぬでしょう。この清(キヨ)が責任をもってお教えしておきまする…」
清という女性は、枕元に腰を下ろし、軽く頭を下げた
「頼みましたよ…清。
ああ…国定(クニサダ)…まだ赤子ですから私の記憶なぞ残らないのでしょうね…」
女性はゆっくりと一人の侍女が抱いている赤ん坊の頬にふれる
「そんなことはございません…!!」
「…ありがとう御代(ミヨ)
殿…私は今もお慕い申しておりまする…」
「儂もだ!!…いくな…いくな壱与(イヨ)!!」
殿と呼ばれた男性は壱与という女性の手を握りしめた
「殿…また冥土の里にてお会いしましょう…壱与はお待ちしておりまする……沙以も、国定も、清も、御代も、珠(タマ)も…皆も…お元気…で……」
握られていた壱与の手の力がすっと抜けた
「ははうえ…?どうしておわかれをいうのです?」
「壱与!!」
「奥方様…うぅっ…うっ」
「まだお若いのに……」
二人の侍女は泣き崩れた
「沙以姫様…奥方様…お母上様とはもう会えないのです…」
清は沙以姫の問いに小さくこたえた
「なぜ?ははうえ、ねむってしまわれたから?」
「お母上様は…重い病で…亡くなられたのです…」
清は涙を必死でこらえて言った
「なくなる…?ではもう、おはなしできないの?めをあけてはくれないの…?」
「……はい…」
清は膝の上でぎゅっと拳を握り締めた
「は…はう…え………うっぅぅぅう…あぁっ…うぅ…!!」
沙以姫は清の膝に泣き崩れた
第一話へ続く
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