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「お兄ちゃん!」

「ユリ!どうしたんだ?」

めかしこんだユリが俺の元にかけてきた。

「お兄ちゃん大好きよ!」

そう言って俺に抱き着くユリ。

「なんだ?いつもは俺に寄って来ないくせに」

そう言いながらも、笑顔でユリを抱き締める俺。

「いいの!だって今日はお兄ちゃんの誕生日じゃないの!」

「あ、今日は俺の誕生日か…」

俺は、誕生日のことなどすっかり忘れていた。

ユリはポケットから包みを取り出した。
「これ、誕生日プレゼント!」

開けてみて!と、貰った俺よりも嬉しそうにはしゃぐユリ。

俺は、ユリがくれた包みを開けてみた。

「…ペンダント?
これ、ユリが欲しがってたやつじゃないか」

「うん!私とお揃いで買ったの!
大切にしてよね!」

ユリは、そう言いながら服で隠れていた自分の着けている俺と同じデザインのペンダントを見せる。

「ありがとう。大切にするよ」

俺は、微笑みながらペンダントを首から下げた。

「今はこんな安い物しかあげられない…でも!いつかは、大好きな日本で歌手デビューして、誕生日に、お兄ちゃんを招待してあげるんだから!」

そう言って得意気に笑うユリ。

ユリは一度一人で地元の都市の企画に参加し、団体で日本旅行へ行ってから、日本の歌手に憧れている。

そして、日本を拠点に活動している韓国人歌手もいると知ってから、歌手を目指しはじめたのだ。

「はいはい、期待してるよ」

「も〜っ!絶対なんだからっ!」





翌日。

俺は、家族でクルージングを楽しんでいた。
父さんが、一生の誕生日に一度きりだぞ?と、海が好きな俺のために手配してくれていたのだ。

楽しいクルージングの筈…だった。

しかし、船のエンジンが突如故障し、悪天候に見回れた。

船は流され、波に飲まれ皆海に投げ出されてバラバラになってしまった。


俺は、必死に海上に顔を出しながら家族の名を叫んだ。
しかし、いつのまにか力尽きて気を失ってしまった。

気がついたのは、病院のベッドの上だった。
そう…漂流していたところを、運良く通りかかった漁船に助けられたのだった。


「良かった!気がついたのね!」

母さんが俺に抱き着く。

「み、皆は!?」
俺がそう訊くと、母さんは黙り込んでしまった。

代わりに、先程病室に入ってきた弟のミンホンがこう答えた。

「母さんと兄さんと僕は無事だ…
 でも父さんは見つかったときは亡くなってて…ユリは…見つからないんだ」

俺は、その言葉を聞いて、発狂したかのように病室を飛び出してユリを探しまわった。

無駄なことだと、頭のどこかでわかってはいても認めたくなかったのだ。

それから数日して、父さんの葬式が厳かに行われた。

結局何日経っても、何ヶ月経っても、ユリは見つからなかった。

「んでだよ…何で俺じゃないんだ!」

俺は最早“二人じゃなくて俺だったら”が口癖になっていた。



「ユリ…どこにいるんだ…」

「何でそんなに落ち込んでるんですか?」

繁華街のベンチに座って俯いていた俺の頭の上から男の声がした。

「…別に…何か用ですか…?」

俺は相手の靴を見ながら静かに言う。

「用って訳じゃ…でも…」

相手は言葉に詰まったのか、少し黙り込む。

「でも…今の貴方は、放っておけない感じがするんです」

「ほっといて下さいよ」

「…嫌って言ったら?」

その言葉に俺は、顔を上げて男の顔を見た。

すると、そこに居たのはあまり歳が俺と変わらないであろう青年だった。

「ちょっと来てください」

青年は、俺の答えを待たずに手を引いて、とあるカフェに入った。


「クリームソーダ1つと…貴方は…?」
「…コーヒーで…」

注文を受けた店員が去ると、青年は口を開いた。

「凄いなぁ…僕はコーヒー飲めないんですよ」

「…だからクリームソーダ…?」

「はい!」

笑顔で受け答えする青年。

「で…何があったんですか?」

「…見ず知らずの貴方に、何故言わなくてはいけないんですか?」

「見ず知らずだから、心置きなく話せる事もあると思いますよ?」


青年の言葉をきいて、俺は、少し考えてから「暗い話になりますよ」と前置きしてから、ぽつぽつと事情を話しはじめた。



「そうだったんですか…
 話すの辛いだろうに訊いてしまってすみませんでした…」

「大丈夫です。
 貴方に話して少しは楽になりました…
 最近あまり会話もしてなかったから…」

俺は、そこでやっとコーヒーを口に運んだ。


「でも、妹さんのことはまだ希望があると思いますよ!案外、他の国に流れ着いてるかも知れませんし!」

「そうですよね…」

俺は、俺を慰めて言ったであろうその言葉に、何故だかとても元気づけられた。

「そうだ!歌手目指してみませんか!?」

突然、青年は目を輝かせて言う。

「何故いきなりここでそんな話…?;」

話題が飛びすぎて、俺は“この男は頭がおかしいのか”とさえ思った。

「だって夢だったんでしょ?妹さんの!
 歌手になって有名になって…いろんな国でも名前が有名になれば、妹さんが、名乗り出てくるかもしれない!」

「な、名乗り出てくるって…」

自分から消息を断ったわけでもないのに…

「ねっ、やりましょうよ!歌手」

青年は嬉しそうに俺の手をとる。

「でも歌手ったってそう簡単には…」

「その気になれば、なれないことはないですよ!」

随分簡単に言ってくれるな…

「僕、歌手目指してるんです!
 それで、受かると歌手養成所に入れるオーディションがあるんです」

「養成所…か…」

「申し込み、今日までなんですよ!
 受けてみる価値はあると思います!」

俺は取りあえず、青年が言うオーディションに応募してみることにした。



 

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