第1章
――とある晴れた田舎町。
お日柄もよく、雲一つない空の下、どこかの小学校では今日も朝礼中に生徒が倒れるような日、村外れの小さな一軒家の農家の夫、野之介は今日も畑仕事に精を出していた。
野之介「やあ、今日も暑いなあ。でも、あと少しで今日の分も終わるからさっさと終わらせよう」
野之介が今日の分の畑仕事を終わらせようとしていると、突然轟音が轟いた。
野之介「な、なんだあ!?」
音がする方を見ると、なんと何処からかロケットが打ち上がっているではないか。
野之介「ええ!?こ、これは!えと、携帯携帯!」
野之介が急いで携帯でロケットを写メる(死語)と、そのまま急いで家にいる妻のもとへ駈け出した。
野之介「(バン!!)大変だ!」
菜々子「トイレならさっき行ったでしょ?」
野之介「大便じゃねえ!これを見ろ!」
野之介が携帯で菜々子に写メ(死語)を送り、それを受信した菜々子が見ると、
菜々子「まあ!?ずいぶん大きいのが出たのねえ!」
野之介「だから大便じゃねえ!ロケットだよロケット!」
菜々子「ロケット?まさかあ、こんな♪テレビもねえラジオもねえ車もそれほど走ってねえような所にロケットだなんて」
野之介「本当なんだって!こんな♪携帯もあるトラクターもあるお巡り毎日ぐーるぐるな所にロケット飛んでたんだよ!ほら!窓見ろよ!ロケットがこっち向かってるだろ!」
菜々子「え?」
野之介「だからロケットがこっち向かっ…え?」
なんと、ロケットがこちらへ向かって飛んできているではないか。
しかし、運よく野之介達の家の真上を通り過ぎ、ロケットは裏の山へと墜落した。
野之介「な…な?ロケットだったろ?」
菜々子「う、うん……裏に落ちたね」
野之介「…ちょっと様子見て来る」
菜々子「気を付けてね?」
野之介「おう。待ってろよ!」
野之介が裏の山へ見に行くと、墜落の際の火災で山が燃え広がっていた。
野之介「うわあ!?これは大変だ!け、携帯…いや、写メってる(死語)場合じゃねえ!」
野之介は急いで家に戻り、菜々子に叫んだ。
野之介「死亡フラグは折れたぞ!」
菜々子「あー良かった!」
野之介「だけどな!逃げよう!山火事が迫ってるぞ!」
菜々子「ええ!?た、大変!」
野之介「田んぼの中に逃げるぞ!そこなら水に囲まれてるから大丈夫だろう!貴重品を持て!」
菜々子「えええ、えっと!金庫!」
野之介「金庫は無理だ!置いてけ!」
菜々子「ええええ、あ、ドレス!」
野之介「もう着れねえだろ!置いてけ!」
菜々子「失礼ね!」
菜々子を急いで連れ出し、田んぼの中に避難すると、野之介は山の方、ロケットが墜落した方から黒マントを羽織った怪物が飛んできた。
野之介「な、なんだあいつは!?」
黒マントの怪物はこちらを見ると、菜々子の方へ襲い掛かってきた!
野之介「な、なんだ!俺の菜々子に何すんだ!」
野之介は必死の攻防の末、持っていたスコップで怪物の脳天に一発くらわすと、怪物は田んぼの中に落っこちた。
菜々子「俺の菜々子だなんて……(照)」
野之介「そんな事より、こいつを見てくれ」
菜々子「え!?そんな事!?…え?人!?」
野之介が倒した怪物はみるみるうちに人間の姿へと変わった。
野之介「人だったとは…これはえらいことをしてしまったな……」
菜々子「え、どうしよう!これ、お巡りさんに見つかったら……」
野之介「……あの山火事の中に捨てて来よう」
菜々子「えっ……」
野之介「いいか、これは秘密だぞ。絶対に誰にも喋るなよ!」
菜々子「う、うん」
野之介は死体を山火事の中へ放り込むと、周りの様子とロケットの残骸の写メ(死語)を撮っておいた。
菜々子「あなた……」
野之介「大丈夫だ。俺たちが黙っていればバレないさ」
その時、反対側から救助ヘリが飛んできて、野之介たちは救助され病院へと移送された。
――病院内。
医者「いやあ、大きな怪我が無くて良かったですね」
野之介「こんぐらいの擦り傷、どうって事ないですよ」
医者「しかし、この噛まれたような傷はどうしたんですか?」
野之介「たぶん、逃げる時に何かにぶつかったんでしょう?」
医者「ふうむ……美夏ちゃん!」
看護師「先生、仕事中です」
医者「あ、五十嵐君!とりあえず消毒を頼む」
看護師「わかりました。雄平さん」
医者「し、しし仕事中だよ!」
野之介「あの、付き合ってるんですか?」
医者「!?や、いや!それに私には妻が!」
野之介「え、不倫?」
医者「五十嵐君!早く消毒したまえ!」
そこに、コートを着た中年が診察室に入ってきた。
田辺「失礼、矢崎 野之介さんですか?」
医者「田辺さん、淋病の治療は明後日ですよ」
田辺「ちちち違います!こら!お前ら!私を汚い物を見るような目で見るな!」
野之介「うええ……」
田辺「こらあ!あんたが矢崎かあ!」
野之介「あ、はい。そうですが」
田辺「ごほん!私は田舎署の田辺と言います」
野之介「淋病の」
田辺「おらあ!…ごほん!今回の墜落事故について詳しくお聞きしたい」
野之介「ああ、はい。写メ(死語)も撮ってありますが」
田辺「是非ともお見せいただきたい」
野之介「はい。今日、畑仕事していたら、西の方から突然の轟音と共にロケットが飛んできまして、あれよあれよと家の裏の山に落ちたんです」
田辺「なるほど。他に何かおかしな点はなかった?」
野之介「うーん…逃げるので必死だったので……」
田辺「わかりました。そのお、何か人とか見なかった?」
野之介「人?」
田辺「墜落現場から焼死体が出たんです」
野之介「うーん…ロケットに乗ってた人ですかね?」
田辺「たぶん、そうでしょうねえ。…ありがとうございました。それと、新しく家ができるまで仮設住宅の方も用意しました。現場検証が終わるまで、協力いただく事になりますが、よろしいですか?」
野之介「ええ、しばらく畑仕事もできないようですし、協力しましょう」
田辺「ありがとうございます。では、今日のところはこのままお休みになってください。それでは」
医者「じゃ、田辺さん明後日ちゃんと来てくださいね」
田辺「な!え、ええ!ちゃんと来ますよ!」
看護師「……」
野之介「……」
田辺「だから汚い物を見るような目で見るな!」
――仮設住宅内。
菜々子と再会した野之介は今後について話し出した。
野之介「しばらくはここで暮らす事になる」
菜々子「ええ。金庫持ってくればよかった」
野之介「金庫はもういいだろう!それでな、あの事はバレてないが、現場検証が終わるまでは捜査に協力する事になった」
菜々子「そうなの……いつまで続くんだろう?」
野之介「わからない。とりあえず、新しい家が建つまでの辛抱だ」
菜々子「ええ……」
野之介「とりあえず、今日はもう寝よう」
菜々子「え、寝る?あ、じゃあシャワー浴びなきゃ」
野之介「え!寝るってそっちじゃ…いや、それも、でも……寝ようか!」
菜々子「うん!」
――真夜中。
真っ暗な部屋の中、野之介が目を覚ました。
野之介「うう…喉が…喉が渇いた」
テーブルの上の水を飲みほす。
野之介「…うう、なぜだ。まだ喉が渇く。ううう……」
その時、菜々子が目を覚ました。
菜々子「うーん?どうしたの?」
野之介「喉が、喉が渇くんだ……う、うう…うああああ!」
突然叫びだした野之介は菜々子の首元に噛み付いた。
菜々子「やーん!さっきもし…なにすんの!痛い!」
菜々子の悲痛な叫びを聞いて野之介は我に返った。
野之介「すまん!大丈夫か!?」
菜々子「突然なにすんのよ!痛いでしょ!」
野之介「本当にすまない!なんでか、君を見てたら、血が欲しくなって……」
菜々子「!…やっぱり、あの時の事、関係があるのかな……」
野之介「もしかしたらな……」
菜々子「あなた……」
――数日後。病院にて。
野之介は首元に残る傷を医者に相談していた。
医者「うーむ、私にもわからない。他の傷は完治したのに、なぜこの傷だけは残るのか……」
野之介「一生残ってしまうんですかね?」
医者「恐らく……なるべく、跡を薄める塗り薬を続けていきましょう」
野之介「わかりました……」
その時、診察室のドアが突然開いた。
?「たのもー!!」
皆「!?」
?「乗り降りは右側!カステラ一番!電話で上へ参りまーす!」
看護師「…坂田さん、あなたの病室は隣の病棟ですよ!」
坂田「なんとビックリ!とっくり!…ぽっくり(頭を垂れる)」
看護師「はいはい、病室に戻りましょうね」
看護婦は坂田の首根っこを掴み、診察室の外へ連れ出した。
野之介「……」
医者「…まあ、春ですから」
野之介「…ですよね」
銃声(パァン!!)
野之介「えっ!?」
医者「まあ、春ですから」
野之介「で、ですよね……」
――仮設住宅。
野之介「ビックリ!とっくり!…ぽっくり(頭を垂れる)」
菜々子「…何をしてるの?」
野之介「あ、いや、お医者さんから効くかもしれないと言われて……」
菜々子「ふーん。さあ、晩ご飯よ」
野之介「ああ」
菜々子「傷の方はどうだって?」
野之介「もしかしたら、一生残るかもしれないって」
菜々子「そうなの……」
野之介「肉しか食べれなくなっちゃったし、毎日血を飲まなくちゃいけないし、本当、どうしていいやら……」
菜々子「黒いマント着る?」
野之介「な、な何を言ってるんだ!?」
菜々子「駄目かな……」(黒マントを見せながら)
野之介「ふざけてんのか!真剣に悩んでるんだぞ!」
菜々子「マントを羽織ったカッコイイあなたも見てみたいな…なんて」
野之介「……きょ、今日だけだぞ!」
菜々子「やった!」
――翌日。
墜落現場で、現場検証をしている田辺と第二の目撃者、佐藤が話している。
田辺「…それは本当なのか?」
佐藤「はい。たまたま矢崎んちに用があって向かってる時に、ロケットがこの山に落ちて、そこから何か人のようなものが空に飛びだしたんです。
そこで俺は何だか怖くなっちゃって、来た道を戻って逃げたんです」
田辺「そうなのか…協力、ありがとうございます」
佐藤「いえいえ。それより、矢崎は今どこにいるんですか?」
田辺「矢崎さん達は今、田舎署の近くにある仮設住宅の方に仮住まいしていますよ」
佐藤「ああ、無事なんですね!それは良かった!ありがとうございます!」
田辺「いえいえ、また何か思い出したら、連絡をください」
佐藤「はい!では」
――仮設住宅。
菜々子「ビックリ!とっくり!…ぽっくり(頭を垂れる)」
佐藤「…何してんの?」
菜々子「キャッ!?…佐藤くん!」
佐藤「やあ、元気そうで良かった。相変わらず、キレイだね……」
菜々子「やだ、いつもいつも…(照)」
佐藤「あれからどうだい?変わりないかい?」
菜々子「そうね…今回のような事だけかしらね」
佐藤「まだ、決心はつかないか?」
菜々子「……やっぱり、私には野之介が」
佐藤「菜々子!俺は本気で言ってるんだ!あんな奴はさっさと捨てて、俺の下に来い!」
菜々子「…ごめんなさい。やっぱり私は野之介が大切なの」
佐藤「あんなアホのどこが!……さっき、ロケットの事、警察に話してきたよ」
菜々子「えっ!?」
佐藤「本当の事を話すんだ。今なら、まだ罪も軽くなるだろう……」
菜々子「そ、そんな……」
佐藤「菜々子!嘘はいつかバレるんだ!」
菜々子「…い、嫌よ!私は…野之介とずっと一緒にいたいの……」
佐藤「菜々子……」
その時、野之介が帰ってきた。
野之介「ただいまー…佐藤!?」
佐藤「…よう。悪いな、時間がないから、もう帰るわ」
野之介「あ、ああ。じゃあな」
そのまま、佐藤は家を後にした。
野之介「菜々子、あいつに何を言われたんだ?」
菜々子「な、なな何でもないよ。…さあ、晩ご飯の支度しなきゃね!」
野之介「…まさか!」
菜々子「あ!あなた!」
野之介はとっさに家を出ると、まだ近くにいた佐藤を捕まえた。
野之介「お前!菜々子に何を話した!」
佐藤「…お前には関係ないさ」
野之介「まさか、あのロケットの事を話したんだろ!」
佐藤「……お前の嘘がいつまでもバレるわけがないだろ!」
野之介「ふ、ふざけんな!」
佐藤「お前の嘘はいつもバレバレだった。…スーパーでトトロを見た、ペプシにはカブトムシの幼虫味がある、俺の家にはドナルドが住んでいる!」
野之介「あ、あれはただの冗談で……」
佐藤「お前のせいで、あれから連日家族連れがやってきてはブー垂れて帰ってく毎日だった。…ドナルドは猫の名前だ!!」
野之介「あれは本当に反省してるよ。だから高級な餌を一週間分…」
佐藤「餌は餌でも鳥の餌だろ!バカにしてんのか!」
野之介「えっ…それはすまなかった」
佐藤「とにかく、ロケットの件はいつかバレる。悪いことは言わない。出頭しろ」
野之介「それは嫌だ。俺は平和に暮らすんだ。菜々子を守るために」
佐藤「無理だね」
野之介「頼む!この件は秘密にしてくれ!この通りだ!」
そう言うと、野之介は土下座をした。
佐藤「断る。お前は犯罪者だ。一生罪を償え」
野之介「この通りだ!頼む!」
佐藤「やだね。帰るわ」
野之介「…くそ!ふざけんなあああ!!」
野之介はそう叫ぶと、佐藤の首元に噛み付いた。
佐藤「ぐっ!?何すんだ!やめっ…くそっ…たれ……」
佐藤は気を失うように息を引き取った。
野之介「……ちくしょう…ちっくしょおおおおお!!」
野之介の悲しさと悔しさにまみれた悲痛な叫びは、曇り空の中へと吸い込まれていった。
――第1章 完
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