第2章
――数日後。
矢崎夫婦の知り合い、佐藤が野之介に殺害されてから失踪騒ぎになり、依然見つからない佐藤の身元に警察も野之介たちに疑いの目を向けるようになった。
仮設住宅にはまだ矢崎夫婦が住んでおり、2人は今後について話していた。
野之介「……俺、やっぱり出頭するよ」
菜々子「待ってよ!だめよ!」
野之介「でも……」
菜々子「私にはあなたしかいないの!後、2ヶ月待てば新しい家ができて、また私たちは幸せに暮らせるのよ!」
野之介「でも!嘘はいつかバレるんだ!あいつもそう言っていた……」
菜々子「大丈夫よ!嘘はバレない。必ず、この嘘は生涯隠し通すわ。だから、大丈夫よ」
野之介「菜々子……」
その時、誰かがドアをノックした。
田辺「(ガチャッ)失礼します。野之介さんは居られますか?」
野之介「あ…淋病さん」
田辺「やかましいわ!!…野之介さん、お話があります」
野之介「はい?」
田辺が床に座るとき、菜々子は不安な顔をしたが、野之介は大丈夫とジェスチャーをした。
野之介「田辺さん、淋病についての相談ですか?」
田辺「違うわ!…野之介さん、佐藤さんが失踪した前日はどちらに居られました?」
野之介「え?私は、そのままここに帰ってきました」
田辺「そうですか。その時、佐藤さんは来られましたか?」
菜々子「いえ、来ていません」
田辺「そうですか……いやね、この近所の方がこの付近で佐藤さんを目撃しているんですよ」
野之介「え?ほ、本当にですか?」
田辺「更に、佐藤さんとあなたが、口論している所も……」
野之介「えっ……」
田辺「野之介さん、少しばかり、署に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
野之介「そ、そんな……」
田辺「詳しい話は署で聞かせていただきます。さあ、行きましょう」
野之介は差し出された田辺の手を奇怪な目で見つめた。
田辺「野之介さん、大人しく来てください」
野之介「いや、淋病が移る……」
田辺「移んねえよ!!……それと奥さん、夜中は気をつけてください。最近はこの近辺で血を抜かれる事件が起きているらしいです」
その時、野之介は驚いた表情で菜々子に振り向いた。菜々子は顔を下に向けた。
田辺「さ、行きましょう」
野之介は全てを悟ると、田辺の後を付いていった。
――田舎署内取調室。
田辺「野之介さん、本当は聞きたいことは山ほどあるんです。ですが、我々はまずこの事から解決せざるえません」
野之介「はい……」
田辺「単刀直入に聞きます。あなたは、佐藤さんを殺害しましたね?」
野之介「……」
田辺「野之介さん、私とあなたの仲だ。本当は私も信じたくはない。だから、本当の事を話していただきたい」
野之介「……私です。佐藤を殺したのは…私です……」
田辺「(辛そうな顔をして)そうですか…くっ……あの、墜落事件が関係しているんでしょう?」
野之介は驚き、顔を上げた。
田辺「実は、あの現場にあった焼死体。多数の血液と殴打された跡が見つかったんです。…あれも、野之介さんですね?」
野之介「…え、そ、そんな……」
田辺「更に、野之介さんの首元の傷と、焼死体の歯形も一致しました。野之介さん、他にも何か隠してますね?」
野之介はとっさに首元に手を当てた。そして曇った顔で
野之介「もう…隠せませんね。わかりました。…全てお話いたします」
――仮設住宅内。
菜々子「もう…もう、私たちは幸せに暮らせないのかな……こんな、こんなはずじゃ…無かったのに…」
そして菜々子は顔を伏せて泣き出した。
しばらくして、再び誰かがドアのノックした。
?「(ガチャッ)失礼します。田舎署の、上原と申します」
菜々子「(涙を拭い)はい?どうされましたか?」
上原「取り込み中大変申し訳ありません。最近この付近で頻発している傷害事件について2,3ほどお聞きしたい事がありまして……」
――田舎署内取調室。
田辺「きゅ、吸血鬼……そういう事だったのですか。これで全て繋がりました」
野之介「隠していて、申し訳ありません……」
田辺「…さぞや辛かったでしょう。私でも隠していたでしょう。だがしかし、佐藤さんを殺害してしまった事は、人として償わなければいけません」
野之介「はい……」
田辺「刑事裁判が終わるまで、しばらく留置場に入っていただきます。いいですね?」
野之介「はい……」
その時、ドアがノックされ、部下達が入ってきた。
部下A「インキン警部、よろしいでしょうか?」
田辺「インキンじゃねえよ!」
部下B「毛じらみ警部、よろしいでしょうか?」
田辺「毛じらみでもねえよ!」
部下C「性病魔王様、近寄らないでください!」
田辺「てめえらいいかげんにしろ!!」
部下A「それで、別件でですね…(耳打ち)」
田辺「……なんだって!?本当にか!?」
野之介は不思議そうな顔をしている。
田辺「わかった。…野之介さん、私はこれで失礼します。あとは部下が案内しますので。それでは」
田辺が取調室から出ると、野之介は部下達に留置場へ連れて行かれた。
――数日後。留置場にて。
野之介「おかしい…裁判が始まらない。何が起きてるんだ……」
その時、留置場の入口から声が聞こえてくる。
?「たのもー!!」
野之介「その声は!?…坂田さん!?」
坂田「おおう!どっかそっかいつかのあんたッチャブル!」
野之介「坂田さん何でここに?」
坂田「イラン!ディラン!知らんプー☆」
野之介「駄目だ、話にならない…」
坂田「(顔を近づけ)なんつったごらあ!!」
野之介「ええ!?」
坂田「みんなシマウマ!ぼくはトラ柄!あんた銀閣寺!」
そして坂田は野之介の隣の部屋に連れて行かれた。
野之介「と、隣なんだ……」
坂田「プーーー☆」
野之介「だ、大丈夫かな……」
――その日の真夜中。
野之介「はあ…はあ…駄目だ、喉が渇く……自分の血じゃ満たされない…くそっ」
?「お前、吸血鬼だろ」
野之介「だ、誰だ!?」
坂田「あわてるな。俺だ、坂田だ」
野之介「え?坂田さん!?」
坂田「落ち着け。昼間のあれは演技だ。罪を軽くするためのな」
野之介「そ、そうなんですか……」
坂田「あんな恥ずかしい事を天然でできるわけないだろ。…んで、お前ここから出たいだろ?」
野之介「え?」
坂田「俺は明日、騒ぎを起こす。そのどさくさで、逃げろ」
野之介「え、そんな事したら……」
坂田「お前、何も聞いてないんだろ?お前の奥さん、発狂して病院にぶち込まれたんだぜ」
野之介「な、なんだって!?本当か!?」
坂田「ああ、それで奥さんを落ち着かせようとした田辺も重症をおってな、今めちゃくちゃになってるんだぜ」
野之介「それでか……」
坂田「奥さんに会いたいだろ?」
野之介「……ああ」
坂田「偶然にもな、お前の奥さんと田辺は十字病院に入院している。精神内科も併設してる大きな病院だからな」
野之介「そこにいるのか。……お願いします」
坂田「幸運を祈るぜ。さあ、明日のために、まずは寝ろ」
野之介「はい…おやすみなさい」
――翌日。
昼食時に坂田が体を張って(脱いで)田舎署全体を混乱させる騒ぎを起こし、その騒ぎの隙に野之介は田舎署を無事抜け出し、十字病院へ向かった。
野之介「着いた。ここが十字病院か。菜々子…待ってろよ。しかし、人が多すぎだな……夜まで待つか」
――真夜中。
十字病院に潜入した野之介は、菜々子がいる病室を探し出し、ついに部屋を見つけた。
野之介「(ガラガラ)……菜々子」
野之介の声に反応し、菜々子がこちらを見る。
菜々子「あ…あなた……(泣き出す)」
野之介「良かった…無事で……」
菜々子「ああ、あな、あなたあ……」
野之介「ここから逃げ出そう。もう、この町に俺たちの居場所は無い。どこか新しい場所へ行くんだ」
菜々子「(泣きながら)うん!どこまでも一緒!」
?「…ずいぶんお熱いねえ」
驚く二人が振り向くと、そこには包帯まみれの田辺がいた。
野之介「田辺さん!?」
田辺「野之介さん、いいんですね?これからもっと苦労する事になりますよ?」
野之介「しかし、もう後戻りはできません。だから、私達は隠居します」
田辺「そうですか。…いつもの私なら、それも許さずにとっ捕まえましたが、いかんせんこのような包帯だらけでねえ、歩くのも大変です」
菜々子「本当に、申し訳ありません…」
田辺「いえ、ご主人の事を想った故の事故です。それに、刑事ですから、こんな傷はしょっ、痛てて!…はは!(笑い出す)」
野之介「ぷっ、ははは!」
菜々子「ふふふっ」
田辺「ふう、さて、逃げ出すなら早くした方が良い。時機に警官達がやってきます」
野之介「はい…大変ご迷惑をおかけしました」
菜々子「本当に、ごめんなさい。…お大事に」
そして矢崎夫婦は出口へと向かった。
田辺「…ふう、初めてだな。こんな事件もあるなんてな。しかし、あのロケットは結局わからず仕舞いか……」
そして田辺は少し離れたソファーに座ると、奥から警備員がやってきた。
警備員「おや、田辺さんではないですか。お久しぶりです」
田辺「おお、梶本か。久しぶりだな!」
警備員「てか田辺さん…ついにエイズですか!?」
田辺「この姿のどこがエイズだ!!アホか!」
――第2章 完
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