最終章



 その後、野之介達は新しい町へ移り住み、名を変え、“黒崎”として暮らす事となった。



――黒崎家。

 背広を着た男が訪ねてきた。

田中「ごめんくださーい!田中でーす!」

菜々子「はーい!…あら、泥棒さん?

田中「(コケる)いえ、田中です」

菜々子「あら、ごめんなさい!」

田中「えーと、ご主人はおられますか?」

菜々子「ああ、主人でしたら、今…杉村さん宅の方に出かけてまして」

田中「ああ、そうですか…何時ごろに戻られますかな?」

菜々子「そうねえ、そろそろ戻ると思うので、中でお待ちになりますか?」

田中「よろしいですか?ですか?では、お言葉に甘えて」

菜々子「ただ、家の物は盗らないでくださいね?」

 田中、またコケる。

菜々子「ふふ、冗談ですよ。さ、どうぞどうぞ」



――黒崎家リビング。

田中「いやあ最近どうですか?」

菜々子「ええ、おかげ様で」

田中「ここに来て、もう1年ですか」

菜々子「そうですね。月日が経つのは早いものですわね」

 その時、野之介が帰ってきた。

野之介「(ガチャ)ただいまー」

菜々子「あら、お帰りなさーい!今、田中さんが来られてるわよ」

野之介「田中さん?ああ、わかった」

 リビングに野之介が来る。

田中「ああ、どーも!田中です」

野之介「…泥棒の方?

 田中、ソファーからずり落ちる。

野之介「ははは、冗談ですよ。お久しぶりです!今日はどうされたんですか?」

田中「(座り直して)ええと、最近ですね、この付近で物騒な事件が起きましてねえ」

野之介「事件ですか?」

田中「ええ、若い女性ばかり狙った、しかも首元に噛み付いて血を抜くっていう気味の悪い事件ですよ」

野之介「血を抜く!?」

菜々子「わあ…怖いわねえ……」

田中「奥さんも若いですから、いつか襲われちゃうかもしれないですよう?」

菜々子「いやあ、泥棒だけで十分ですよお!」

田中「え、それって私の事ですかい!?」

菜々子「いやですわ、ふふふふ!」

田中「はははは!それは顔だけですよ!はははは!」

野之介「……」

田中「はは…どうしました?野之介さん?」

野之介「ん?あ、いや」

田中「まあ、最近はこんな物騒な事件が起きていますから、お気を付けください。
あ、そうだ。注意を呼びかけるチラシもありますから、こちら差し上げますね」

野之介「どうも。(目を通す)…犯人の特徴は不明ですか」

田中「そうなんですよ。誰にも目撃されずに女性を襲う…これはプロの犯行ですよ!きっと!」

野之介「ふむ……」

菜々子「あなた、怖いわ……」

野之介「大丈夫だ。俺がとっ捕まえてやる!」

田中「それでは、これで失礼します」

菜々子「はい、お気を付けてお帰りくださいね」

田中「はは、大丈夫ですよ」

 田中、ドアを開ける。

菜々子「いえ、庭にさっき掘った穴が

田中「えっ?(落ちる)あああぁぁ…」

野之介「……」

菜々子「あなた?どうしたの?怖い顔をして……」

野之介「え?あ、いや、何でもない」

菜々子「そう……」



――夜、寝室。

 ベッドで考え事をする野之介。

野之介(ついに俺の犯行が明るみになってしまった。わかってはいるんだ。
本当は血を吸うために襲ってはいけないことを。しかし、あれから私はますます吸血鬼に…いや、もう完全になってるのかもしれない。妻もあれ以来、私が吸血鬼だという記憶を無くしてしまったし……)

菜々子「(ガチャ)あら、もう寝るの?」

野之介「ああ、今日は疲れたからなあ」

菜々子「そう……ねえ?」

野之介「うん?」

菜々子「私達、結婚してから結構経つよね?」

野之介「ああ、もう5年か」

菜々子「そろそろさ…子供欲しいかなあ…って」

野之介「…子供……」

菜々子「…嫌?もう、ここに来て1年だし、もう落ち着いたし良いかなあって……」

野之介(俺も子供を持てば落ち着けるかな……)

菜々子「…ねえ?」

野之介「良いよ。子供を持とう」

菜々子「本当!?やった!!」

 菜々子、野之介に抱き付く。

野之介「ははっ……」

野之介(しかし、子供にまで吸血が遺伝してしまわないだろうか……今はいっか☆)



――1年後。
 黒崎家に息子が生まれ、端から見れば幸せそうな家庭に見えた。が……。



――黒崎家付近。夏の夜。

上原「暑いな…夜なのに暑い…溶けそう…わしゃアイスか!!

周り「ざわざわ…」

上原「あっ……」

 戸惑う上原を尻目に周りの人達が散らばってゆく。

上原「まったく…何でこんな所にまで事件を追わないかんのよ……ああくそ!」

周り「ざわざわ…」

上原「…見てんじゃねえよ!」

 またもや散り散りになる周りの人々。

上原「まったく……」

 その時、上原の目の前を菜々子が通り過ぎた。

上原「…!?あれ?今のは!?なんであの人がここにいるんだ!?…まさか……」

 上原は菜々子の後を追い、家の前まで突き止めた。

上原「この家か…旦那が脱走してから行方がわからなかったが、まさかのうのうと生きていたとは。ん?あの窓の近くにいるのは…」

――黒崎家リビング。

子供「あーーー!!」

野之介「おー、よしよし!」

菜々子「まあ、おっぱいの時間かしらね」

野之介「そうか、はい(子供を渡す)」

菜々子「はーい、おっぱい飲みましょうねー」

野之介「うん!(身を乗り出す)」

菜々子「あなたは赤ちゃんじゃないでしょ!」

――黒崎家の庭。

上原「やっぱりあいつだ…子供までいる。もしかしたら吸血事件の犯人はみんなあいつかもな。ここは一旦署に報告だ」

――黒崎家。

野之介「(カサッ)ん?」

菜々子「どうしたの?」

野之介「…いや」



――翌朝の田舎署。

坂田「たのもー!!

部下B「またあんたか!」

坂田「快速電車田舎署通りブオオオーン!!」

部下C「おい誰かこいつ摘み出せ!」

坂田「あ”あ”あ”あ”!!おしっこおおお!」

部下B「駄目だ、手遅れか……」

上原「課長ー!…なんだお前また来たのか!?」

坂田「お好きなままに!私を抱いてー!」

上原「はあ!?バカか!?…そんな事より!課長!お話が!!」

課長「ん?何だね?」

上原「矢崎の所在を掴みました」

課長「本当か!?」

上原「はい。そして恐らく、辺鄙町の事件の犯人も皆、あの男かと」

課長「そうか…しかし、犯行の証拠は無いが、脱走で逮捕状は取れる。みんな、矢崎を確保するぞ!」

部下A「ですが、あの地域は辺鄙署の管轄では?」

課長「そこは話をつけておく」

上原「お願いします!では、明日の明け方、矢崎の家に行きましょう!」

皆「おう!」

坂田「僕のお!僕の電車じょああああああ!!」

皆「やかましい!



――翌日の明け方、黒崎家。

野之介「ふぁああ…もう寝るよ」

菜々子「ええ、今日も夜勤だもんね」

野之介「ああ。寝とかないとな」

菜々子「おやすみ!」

野之介「おやすみ!」

 野之介、階段で地下へ。

菜々子「さ、私も寝る準備しましょうかね」

――黒崎家前。

上原「ここです。ここに矢崎が住んでいます」

部下A「そうか。こんな立派な所に住みやがって…」

上原「一応ですが、準備はできてますか?」

部下C「ああ、十字架に銀の杭と、ニンニクもあるぜ」

上原「もしかして、ニンニク食べました?

部下C「ああ、念のためにな」

部下B「なんだ、いつもより口が臭えと思ったら食ってんのかよ」

部下C「いつもよりって何だよ?ああ?」

部下B「ああ?おめえいつも口臭えって言ってんだよ」

部下C「んだとこらあ」

上原「やめてください!聞こえちゃうでしょ!」

部下C「…ふん」

上原「さあ行きましょう。この事件を終わらせましょう」

部下A「よし、行くぞ」



――黒崎家。
 日の出近く。家の中にインターホンの音が響く。

菜々子「(ピンポーン)ん?はーい!」

 菜々子がドアを開ける。

菜々子「はい……」

上原「どうも、田舎署のものです。お久しぶりです。矢崎さん」

菜々子「!!そ、そんな!」

部下C「おっと、騒がないで!」

菜々子「うっ、臭っ

部下C「あ”あ”あ”あ”ん!?」

部下B「すいませんね。奥さん、あなた達、数年前の事件での重要参考人として署に来ていただきます」

菜々子「え、えと、何の罪で……」

部下A「田舎町とこの辺鄙町での殺人事件、そして留置場からの脱走も」

菜々子「……」

上原「どうしました?」

菜々子「ごめんなさい。私、あれから記憶無くしちゃってて、ロケットが落ちてから覚えて無いの」

上原「そうですか…あの時、追いつめてしまったのは私ですが、ただ、ご主人のは殺人事件ですので……」

菜々子「そういえば!田辺さんは!田辺さんと話をさせてください!」

部下A「田辺は…あなた達を逃がした責任を問われ、辞職されました」

菜々子「え!?」

上原「仕方ないんです。こんな大事件の被疑者であるあなたのご主人を逃がしてしまった責任はとても大きいのですから」

菜々子「そうなの…」

部下C「それで、ご主人はどこに?」

菜々子「臭っ!

部下C「お前も逮捕するぞごらあああ!!」

部下A「すみません、ご主人はどちらに?」

菜々子「……」

上原「奥さん、もうご主人は逃げられないのです。大人しく引き渡して頂きたい」

菜々子「…主人は、地下にいます」

部下B「そこの階段からですね?」

菜々子「はい…」

部下C「よし行くぞ!」

皆「うっ!くっさ!!」

部下C「帰るぞバカ野郎ー!!(泣)」

 部下ABC、地下へ走り出す。

上原「奥さん、あの時は本当にすみませんでした…」

菜々子「いえ…こちらこそすみませんでした……」

上原「…そこで、待っててください」

 上原も地下へ。

――黒崎家、地下。
 真っ暗な中で野之介はベッドの上で眠っている。
 部下Bがジッポーライターで野之介を起こさないように灯りを点す。

部下A「こいつか…」

部下C「どう見ても普通の人じゃねえか…」

部下B「しかし、夜になればこいつは吸血鬼になるんだ」

部下A「で、こいつどうすんだ?起こしたら俺たちが危ないだろ」

部下C「そりゃあ…処刑だろ(杭を持って)」

部下B「よし、やれ。口ニンニク

部下C「あ”あ”ん?…くそ、やっぞ」

 部下Cが野之介の胸部に銀の杭を振り下ろそうとした時に上原が地下に降りて来る。

上原「あっ!!やめろー!!

 上原の声で部下Cの手が止まり、野之介が目覚めてしまった。

野之介「何してんだ?」

部下B「しまった!?」

 部下Cは杭を振り下ろしたが、野之介は間一髪で避けた。

野之介「(バッ)誰だ!…そうか、俺を殺しに来たか」

部下A「今までの吸血事件、お前が犯人だろ!」

野之介「ああ…そうだ」

部下B「大人しく捕まるか、償って死ねえ!」

上原「やめろお!!」

野之介「断る。私は死なない」

部下C「うるせえ!大人しくお縄をちょうだいしやがれ!」

野之介「むっ!?臭い!?ニン…ニクだと…(怯む)」

部下C「今だ!」

上原「ああ!やめろお!!」

 部下Cが杭を突き出したまま走り出し、上原も止めようとしたが間に合わず、銀の杭は野之介の胸部に突き刺さった。

野之介「ぅぐ!?ぐ、ぐあああああ!!」

上原「あ…あぁ…そんな……」

 そして野之介はみるみる内に灰へと変わり果てた。

部下B「やった!やったぞ!」

部下A「これで事件解決だ!」

部下C「ははは!俺が英雄だぞ!」

部下B「は?黙れよ口ニンニク

部下C「んだとごらあああ!!」

部下A「まあまあ」

上原「なんてことを…なんてことをしてくれたんだああ!!

 上原の叫び声に三人は固まった。

上原「奥さんも、子供もいるのに、田辺さんからも、殺さないでくれとお願いされたのに……なんて事を…(泣き出す)」

部下B「え、それは、こいつは凶悪犯罪者だから…」

部下A「たくさんの命がこいつに奪われてんだぞ!」

部下C「そ、そうだよ!俺達警察だし!」

上原「その警察が人殺していいんですかあ!?

皆「う……」

上原「僕は、僕は奥さんや田辺さんに何て言えば…うぅ……」

皆「っ……」

 こうして事件は終息した。何とも後味の悪い余韻を残して……。



――田舎署。

菜々子「私たちは、何でもない、普通の家庭だったんです。特殊な生まれでもないし、普通に生き、普通にあの人と結婚し、普通に子供も生まれ、ただの幸せな家庭だったんです」

上原「ですよね……」

菜々子「だけど、完全な普通では無いのは気づいていました」

上原「…と、言いますと?」

菜々子「ロケットが墜落した日から、私の記憶は所々しか覚えてないし、いつしか太陽がダメになったし、子供も私の血を吸うんです。…そして、私もあれから血が欲しくなりまして……」

上原「…もしかして」

菜々子「実は、私も吸血鬼なんです



――或いは吸血鬼 完。




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