某フォロワーさんのイラストを見て浮かんだ話。









 ハンター同士の私闘を禁じる。あるいは、猟団同士の私闘を禁じる。
 そんな掟が、ギルドにはある。あくまでもハンターが戦うのはモンスターであって、人間が相手ではないのだということだろう。
 だが、元々が血の気の多いハンター達だ。そうなってしまうことも、決して少なくはないのだ。



(うーん……)
 後ろ手に縛られたリクは、自分を捕らえた男たちを見上げる。どれも屈強と言っていい体格の持ち主で、身にまとう装備は上位のものだ。おそらくはあと少しでG級に手が届く、といったところだろう。
 なにやらまくし立てる内容をリクはぼんやりと聞き流していたが、要するにリクの所属する猟団が目障りなのだということらしい。少し痛めつけてやろうと、そういうことだ。リクを選んだ理由については言及しなかったが、おそらく。
(なめられたんだろうねぇ……)
 容易に想像がつく。G級ハンターばかりが名を連ねる猟団において、皆にいじられ貶され、それでもへらへらと笑っている男がいる。そいつが自分たちの手に余るなんて、きっと彼らには想像もつかないのだろう。これでも、リクだってG級ハンターなのだけれど――しかもかつては傭兵隊に所属していた、本物の戦闘のプロなのだけれど。知らないというのはこわいことだ。
 だが、だからこそリクは自制している。本気で暴れれば、彼らを全員伸して脱出することは可能だろう。だが屈強な男4人が相手となると、どうしても怪我をさせない訳にはいかなくなる。一方的に怪我をさせては問題だ。だから、
(早く手を出してこいよ)
 こちらが怪我をしていれば、正当防衛が成立するのだから。
 そんなことを思い、挑発するつもりで鼻で笑ってみると、男たちは見事に挑発に乗ってきた。
「このっ……!」
 いきなり、腹を蹴りつけられる。予測はしていたものの、やはり攻撃は重かった。男たちは身体を折ったリクの髪を掴み上げ、顔に殴りかかる。
 一方的に振るわれる暴力に、リクは黙って耐えた。声など出してやるものかと思ったし、奥歯を噛み締めていないと口の中を切ってしまうだろうという現実的な理由もあった。男のつけている装備の尖った部分が頬をえぐり、派手に血が吹き出す。同じように左目のあたりを抉られて、鋭い痛みが走った。ぶしゅ、と噴き出した血が視界を染める。
(……眼球は、無事か)
 おそらく瞼がぱっくりと割れている。だが眼球に損傷はないようだった。それだけでも僥倖だと、無事な右目で男たちを睨みつける。その視線の鋭さに、男たちはわずかに怯んだようだった。思わず、笑う。こんな程度で怯むくらいなら、最初から手を出さなければ良いのだ。
「……もう、いいか」
 呟いて、のろのろと身を起こす。後ろ手に縛られていた縄はとうに切った。用を成さなくなったそれを適当に落とし、ぐるぐると肩を回す。左目は使えないが、まあなんとかなるだろう。さて、反撃開始だ。
 何が起きたのか理解できていないのか、呆然としている彼らとの間合いを詰める。思い切り膝を叩き込んでやると、一人目はあっさりと地面に沈んだ。そいつには一瞥もくれることなく、次の男に迫る。驚いたように目を見開いていたが、顔面に肘を叩き込んでやった。ごきん、と派手な音と手ごたえ。おそらく鼻が折れたのだろう。前歯も折れたかもしれない。血を撒き散らしながら倒れるそいつを踏み越えて、三人目だ。一連の流れを見て、腰の片手剣に手をかけていたが、遅い。その手に蹴りを一撃、続けて横っ面にもう一撃。尖ったグリーヴの蹴りは、さぞかし痛いことだろう。一応、刺さらないようにはしてやったけれど。派手に吹き飛んだ男は、壁に激突して地面へと崩れ落ちた。もう立ち上がってはこないだろう。それだけ確認して、最後のひとり。そいつはすでにナイフを抜き放っていた。にい、と唇の端を釣り上げる。
「てめえっ……!」
 ナイフを振りかざして挑んでくるそいつは、リクの予想通りだった。元傭兵のリクから見れば、まるでなっていない。ハンターはあくまでもモンスターを相手にするものだから、対人戦の技術なんてなくて当たり前、なのだけれど。大きく振られたナイフをひょいと避け、無造作にそれを奪って相手の喉下に突きつける。何が起こったか理解できなかったらしいそいつは、リクがナイフの先であごの下をつついてやると、ぐっと唾を飲み込んだようだった。
「おまえらにチャンスをやる」
 鋭いことは鋭いが、手入れはあまりされていないナイフで、すうっと喉元を撫でてやる。かすかに赤い線が残る程度だが、本人は斬れたと思っているかもしれない。
「このまま俺の目の前から消えて、うちの猟団に近寄らないようにすれば、今回の事は問題にしない。俺がギルドに申し立てれば、どんなことになるか解ってるでしょ?」
 明らかに、仕掛けたのは彼らだ。やりすぎの感もないわけではないが、リクがやったのはあくまでも正当防衛。彼らはハンターの資格を失う。何らかのペナルティもあるだろう。それを避けたいのであれば二度とこちらの視界に入るなと、念を押してやる。
「もしお望みなら、」
 今度はちゃんと殺してやってもいいよ。そう告げて、持っていたナイフを男の腰に戻してやる。鞘にはまるぱちんという音が、やけに響いた。無造作に踵を返して、リクはその場を後にする。
 その後彼らがどうしたのか、リクは知らない。少なくともリクの前には、彼らは二度と姿を見せなかった。








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