リクエスト「10歳くらいのノブツナ公」






 傍らに、温かいものがある。
 布団の中でまどろみながら、ノブツナはそれを抱き寄せた。すっぽりと腕の中におさまるそれは柔らかく、もぞもぞと動いてノブツナに擦り寄ってくる。どこかくすぐったくて思わず笑い、ふと違和感を覚える。確かに温かいが、これは何なのだろう。アイルーくらいの大きさだが、アイルーがこうして布団に入ってきたことは今までにない。どうも手触りもアイルーのそれとは違うようだ。まだ眠っていたいと主張するまぶたをこじ開け、布団をめくってみる。最初に認識できたのは、黒い髪だった。細い身体、ゆったりとした紺色の着物。
「……!?」
 反射的に起き上がる。目にしたものが信じられなくて、思わず顎ががくんと落ちた。子供だ。黒髪の子供が、ここにいる。急に布団を剥がれて少し寒かったのか、身体を丸める。ノブツナは慌てて布団をかけ直してやり、しばし呆然と子供を見下ろした。



「……で、どこで拾ってきたの?」
 あっけらかんと訊ねたのはセブンだ。狩りに行く約束をしていたのだが、早く起きたのでノブツナの家に来てみたらしい。そうしたら家主のノブツナが、ベッドの上で呆然としていたというわけだ。しかも、ベッドでは子供が眠っている。
「いや、これは……」
 言いかけて、口を噤む。なんと説明すれば良いのだろう。自分にも解っていないことを人に説明するのは難しい。困惑するノブツナをよそに、セブンは眠る子供の顔を覗き込んだ。
「……なんか、ノブちゃんに似てない? 隠し子いたの?」
 その問いには、全力で首を横に振って否定した。断じてそんなことはありえない。だが、似ているという言葉に、あらためて子供の顔を覗き込んだ。あまり彫りの深くない顔は、信綱の故郷にはよくある顔だ。それは、着ているものからも想像がついた。この子はノブツナの故郷にゆかりがある。それは間違いない。だが自分に似ているかといわれると、それはよく解らなかった。そもそも、自分の顔をまじまじと見る機会などそうそうない。
「……似てるのか?」
 首をかしげると、セブンは頷いた。
「似てるよ。目元とか、そっくりだもん」
 セブンがそこまではっきりと断言するのなら、似ているのだろう。それにしても覚えがない。ノブツナは何かヒントがないかと、少し布団をずらして着物に目を凝らす。果たして、それは襟元にあった。
「……カタバミの、紋」
 ノブツナの呟きに、今度はセブンが首をかしげる。
「なにそれ」
 ノブツナは、子供の着物にひとつだけ染め抜かれている小さな模様を指差した。
「これ、家紋って言ってな。こっちでいう紋章だ。これは――」
 中央に小さな丸があり、そこからハートが三つ生えている。これは生命力の強いカタバミの葉を模したもので、家の絶えない事を表しているのだと、ノブツナは幼い頃に聴いたことがある。上泉家の当主である父親からだ。つまりは、
「……俺んちの、紋だ」
 その言葉に、セブンが目を丸くする。
「……東の国の?」
 おそるおそる、呟かれた言葉に頷く。家も国も捨てて、ノブツナはこちらへ来た。詳しいいきさつまでは話していないし話すつもりもないが、その事実だけは猟団の皆が知っている。じゃあ、とセブンは子供に視線を落とした。
「弟とか……親戚の子?」
 自分で言いながらも、疑わしげだ。もしそれが事実だったとしても、どうしてここにいるのだろう。その疑問は解決しない。二人揃って首をかしげたところで、子供がふいに身じろいだ。小さく伸びをして、ぱちりとまぶたが開く。
「…………」
 ころりと寝返りをうって仰向けになり、ようやく自分を覗き込むふたりの男に気付いたらしい。きょとんと目を丸くして、ふたりを見上げてくる。ふたりもなんとなく見つめ返してみたが、これでは話が進まない。ノブツナは思い切って、声をかけてみることにした。
「おはよう。えっと……おまえ、誰だ?」
 いささか乱暴な問いになってしまったが、子供は異議を唱えたりはしなかった。まるい瞳を瞬いて、一瞬だけ唇を引き結ぶ。
「……かみいずみ、のぶつな」
 小さな唇から吐き出された言葉は、ふたりを驚愕させるのに充分な威力を有していた。



 不思議なことに、その子供――仮に、信綱ということにしておこう――は、ここはどこだとは訊かなかった。少し緊張した様子で、あなたたちは誰ですか、と礼儀正しく訊いてきたので、ノブツナとセブンは自己紹介する。ノブツナの名前を聞いて、子供はぱちりと瞬いた。
「……おんなじ名前、ですね」
 そうだな、と言って頭を撫でてやると、子供はわずかに表情を綻ばせる。同じ名前だと解って、少しだけ警戒を解いてくれたようだった。
 そんな小さな信綱が空腹を訴えたので、セブンがキッチンに立つ。この間に、と思い、ノブツナは信綱に色々と質問をぶつけてみた。家のこと、兄弟のこと、両親のこと、そして師匠のこと――その答えは、全てがノブツナの記憶と一致する。どうやら本格的に、この子供はノブツナ自身だと認めなければならないようだった。溜息をついて、どうしてここにいるんだと訊いてみると、子供は首をかしげるばかりだった。本人にも解らないらしい。では何歳だと訊いてみると、10歳だという回答があった。
(10歳……)
 記憶を探るが、何があったかなんて思い出せない。元服を迎える前だから、師匠のもとで剣の腕を磨いていた頃だろう。だが少なくとも、こんな奇妙な体験をした覚えはない。ううんと考え込んでいると、ふと信綱の小さな手が視界に入った。きつく皺が寄るくらいに、布団を握り締めている。見れば、唇も固く引き結ばれているようだった。泣きそうだな、とぼんやり考えて、はっとする。
(……我慢してる、のか)
 剣の師匠に出会ったのは、たしか6歳くらいだっただろうか。その頃の自分は泣き虫で、師匠に「男は泣くもんじゃない」と叱り飛ばされた。それから、ぐっと唇を噛んで我慢する癖がついたのだった。まさに今の信綱がそれだ。
 冷静に考えてみれば、まだ10歳の子供が知らない場所に放り込まれて、不安に感じない訳がない。帰れるかどうかも解らない、おまけにここで見るものは、どれもこれもが故郷のそれとは違っている。目の前には知らない男がふたりだ。おそるおそる話しかけてはくるが、いい人かどうかも解らない。途方に暮れて泣き喚いたとしても、誰も責められないだろう。無言で堪えている子供(どうやら自分らしいが、それはさておき)がいじらしくて、ノブツナはそっと手を伸ばした。布団を握り締めて、血の気がうせてしまっている指先を解いて、温めるように握る。
「……ちゃんと、うちに帰れるようにするから」
 どうすればいいのか、正直全く解らなかったが、それでも言わずにはいられなかった。安心させるように笑ってみせる。
「あんまり緊張すんな。疲れるぞ」
 なんならゆびきりするか、と故郷の風習を持ち出してみると、こちらを見上げる子供の目が揺れた。小指を絡ませてそっと握ると、その瞳からぽろりと一粒、涙がこぼれる。慌ててそれを拭う信綱を、ノブツナは見ないふりをしてやった。武士の情けというやつだ。
 キッチンの様子を見に行くふりをして、ノブツナは子供を見ないままに立ち上がった。
 そうして、ふと思う。そういえばアイルーたちの姿が見えないが、どこへ行ったのだろう?



 セブンお手製のサンドイッチと、あるものを適当にごった煮したスープで腹を満たしていると、家のドアがノックされた。返事をすると、ドアが開いてビリーが顔を覗かせる。
「おはよ…………」
 途中で声が途切れたのは、きっとあっけにとられたのだろう。ノブツナは冷静にそう考えた。そういえば今日の狩りに出る約束は、ノブツナとセブンと、ビリーとアッシュもしていたのだった。アッシュはきっとまだ寝ているのだろう。セブンは早く起きたからと押しかけてきたし、ビリーは多分時間通りだ。時間通りに来たのにノブツナたちがまだご飯を食べているのにも驚いただろうし、見知らぬ子供がいることにも驚いているはずだ。その証拠に、ビリーの金色の瞳はかすかに見開かれて、ひたりと黒髪の子供に固定されている。しばしの沈黙のあと、ようやくビリーが言葉をついだ。
「……隠し子?」
「ちがう!」
 即座に否定して、とりあえず中に入れと促した。頷いて、ビリーは中に入ってドアを閉める。見慣れたナルガXとオウビートの混合装備だ。携えているのはゴールドイクリプス、火属性の片手剣だ。ふと気付くと、隣の子供がぽかんとしてビリーを見上げている。また知らない人が増えたわけだが、不思議とおびえている様子はなかった。ただただ、ぽかんとしている。
「どうした?」
 小声で訊いてみると、はっとしたように瞬いた。迷ったように視線を彷徨わせては、またちらりちらりとビリーを見上げている。何がそんなに気になるんだろうと思っていると、信綱はノブツナにこっそりと話しかけてきた。
「……あの、」
 なんだ? と背を丸めて、耳を近づけてやる。囁くような声で、子供は言った。
「あのひとの髪の毛は、本物ですか?」
 思わぬ言葉に、目を見開く。それでようやく思い出した。そういえば、金髪の人間は故郷にはいないのだった。
 ノブツナがこちらへ来て、驚いたのもそれだった。セブンのように茶色い髪ならば、そこまでの違和感はない。だが金色や銀色、果ては赤色の髪を持ち、肌の色も違う人たちを見て、ノブツナは最初つくりものかと驚愕したものだ。同じ人間とはとても思えなかった。あちこちを歩き回って、ようやくそういうものだと、納得はしないまでも理解したのだった。それが今では当たり前のことになっている。思わず笑って、ノブツナは答えた。
「本物だよ」
 手の動きで、ビリーを呼ぶ。素直に近づいてきたビリーに、髪の毛を見せてやってくれと頼んでみた。
「ちょっと触らせてやってくれないか。金色の髪は珍しいんだよ」
 ビリーは不思議そうな顔をしたが、それでも頭装備を脱ぎ、しゃがんで後ろを向いてくれた。結われた金髪があらわになる。長く編みこまれた髪に、そっと信綱は小さな手を伸ばした。手に取り、指先でなでる。
「……ほんものだ」
 すごい、と顔を輝かせるのが可愛らしくて、思わずノブツナは笑みをもらした。気付けば、傍らで見ていたセブンも笑っている。
「ほんとに可愛いね。結局あれなの、この子なんなの?」
 一瞬、言葉に詰まる。少し考えて、本当の事を話すことにした。詳しい事情は不明だが、どうやらこの子供はノブツナ自身であるらしい、ということ。黙って聞いていたビリーが、ふと口を開きかけて、閉じる。言わんとしていることは解る。本当に帰れるのか、というところだろう。そればかりはノブツナにも解らないので、肩をすくめるだけで返答に換えた。



 それからは忙しかった。狩りの約束をしていたがこれでは狩りになど行けないので、まず最初にアッシュの家に行った。アッシュは寝こけていたが、目を覚まして信綱を見るなり「隠し子か?」と訊いてきた。皆が同じ事を言うのだなと、おかしく思いながら事情を説明し、慌てて着替えるアッシュを置き去りにして今度は集会所へと向かった。
 集会所にはジャックとスカイが残っていて、他の面子はすでに狩りに出たのだと教えてくれた。ふたりの視線がちらりと信綱をとらえる。口を開きかけたので、ノブツナは先回りして言ってやった。
「隠し子じゃないからな」
 どこへ行っても隠し子扱いされる信綱は、ノブツナの後ろに隠れている。アッシュのところでは燃えるような赤毛を目にして、目をまるくしていた。今も、ジャックの見事な銀髪とスカイの青みがかった銀髪を目にして、ぽかんとしている。このふたりは身長も高いので、信綱はうんと首を傾けないと見上げられないらしかった。そんな信綱に、ジャックはすかさずしゃがみこんで笑いかける。
「こんにちは」
「……こんにち、は」
 ジャックの穏やかな声と笑顔は、信綱の警戒心を解いたようだった。さすがはジャック、とノブツナはひそかに感心する。ひかえめに服の裾が引っ張られて、ノブツナもしゃがみこんだ。
「どうした?」
「あの、あのひとの髪も、」
 ああ、とノブツナは苦笑する。やっぱり本物には見えないのだろう。
「本物だ。……おいジャック」
 いぶかしげな顔をしているジャックに、ビリーと同じように髪を見せてくれと頼んでみる。快く了承したジャックは、おもむろにその場にあぐらをかいた。さあ来い、とばかりに両手を広げるジャックの膝に、おそるおそる信綱が座る。肩口から垂れる髪をそっと梳いて、ほうと溜息をもらした。
「……きれい」
 褒められて悪い気のする者はいない。ジャックは満面の笑みで、信綱の頭をわしわしと撫でた。なんだか、お父さんと息子、のようだ。ノブツナの父親は厳格で、こういうことをしてもらった記憶はない。少しだけ、信綱が羨ましいと思った。



 結局その日は狩りに出ることもなく、集会所で大騒ぎして一日が終わった。皆で適当に料理を注文し、見たことのないものに戸惑う信綱に片っ端から味見をさせ、かわるがわる信綱の頭を撫でては愛でる。子供というのはかわいいものだ。信綱のように、ききわけがよく、素直で控えめな子供ならなおさらだ。皆で色々な話をして、信綱は目を輝かせてそれに聞き入る。
 そんな様子を眺めていて、ノブツナは己の過去を思った。あの歳の頃といえば、毎日剣ばかり振っていたものだ。いずれ戦場に出ることがわかりきっていたから、稽古も真剣だった。歳の近いヒデツナもいたが、ふざけあうことなど、ほとんどなかったように思う。周囲の大人たちは当然、のびのびと遊ぶことなど許してはくれない。いや、許さないのは環境だろう。そういう場所で、ノブツナは育ったのだ。
 それについては、恨みも後悔もしていない。ノブツナはノブツナなりにそんな故郷を愛していたし、満足もしていたのだから。だがそんな所から、ここに迷い込んだ10歳の自分がいる。すぐにもとの場所に返さなくてはならないとしても、今だけは楽しい時間をすごさせてやりたいと思うのは、当たり前のことだった。ひっそりと笑って、酒を喉に流し込む。いつもは美味い酒が、どういうわけかあまり味がしない。
「はい」
 横から、大きな皿が差し出された。骨付き肉のローストに、フライドポテトが山盛りになっている。隣に座ったのはビリーだった。喧騒の輪から抜け出してきたらしい。
「可愛いよね、あの子」
 本当にノブツナなの? とビリーはなにげに酷いことを口にする。酷いなあ、とノブツナは笑ってみせた。
「俺だっていたいけな子供の頃があったんだぞ」
「……まあ、そういうことにしといてあげる」
 ビリーひどい、と泣く真似をしてみても、ビリーはけろりとしている。その視線は、喧騒の中心にいる信綱に注がれていた。
「……色々あって、今のノブツナになったんだろうしね」
 ポテトに伸ばした手が、ぴたりと止まった。
(そうか、)
 そうなのだ。ノブツナは結局のところ、故郷を捨てた。放浪の旅をした。そうしてハンターになって仲間を得て、猟団を立ち上げた。その過程では、色々なことがあったのだ。辛い思いをした。絶望もした。怒りもした。泣いたこともある。だが後悔だけはしていない。そのノブツナが通ってきた過程を、あの子供はこれから通るのだ。それを止めるつもりはない。止めてしまったら、今のノブツナはないのだから。それは当たり前のことで、でも――なんてことだろう、と、思う。いま無邪気に笑っているあの子は、これから辛い思いをするのだ。
 もぐもぐと肉を頬張っていたビリーが、黙ってしまったノブツナにちらりと視線を走らせたようだった。



 結局、家に戻るのは夕方になった。
 普段から物静かな子供は、騒ぎ疲れたというよりは、周囲の騒ぎに押されて疲れてしまったのだろう。うとうとしていた信綱を抱えて、家路を辿る。途中で目を覚ました信綱が歩くと言ったので、下ろして手を繋ぎ、歩き出した。温かい手のひらの温度を感じながら、信綱の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。空が赤く染まっていた。明日も天気がいいだろうと、ぼんやり考えた、その時だ。
 不意にくらり、と視界が揺れた。傾いだ身体を支えようと足に力を入れるが、その踏みしめている地面がまたぐらりと揺れる。ああ、終わりなのか、と思った。途中から、なんとなく気付いてはいたのだ――これは夢だ。たった今、ノブツナは夢から覚めようとしている。
 不思議と、信綱と繋いだ手の感覚ははっきりしていた。恐れる様子もなくこちらを見上げる信綱に笑って、ノブツナは地面に膝をつく。多分、あまり時間がないだろう。その前に、言っておきたいことがあるのだ。
「あのな、」
 視線を同じ高さにして、ノブツナは切り出した。信綱はじっとこちらを見ている。その黒目がちな瞳に己の姿が映りこんでいるのを見ながら、ノブツナは続けた。
「おまえは、これから色んな経験をする。辛い思いもするし、絶望もするし、怒りもするし、泣きもするよ。でもな、おまえは必ず、いい仲間に恵まれるから」
 だから立ち止まらないでくれ、とノブツナは言った。振り返るのは構わない。でも立ち止まってしまったら、歩みを止めてしまったら、きっともう前には進めないだろうから。
 きっと10歳の自分には意味が解らなかっただろう。それでも何かを感じ取ったのか、信綱ははっきりと頷いた。その瞳には、決意の光がある。ノブツナも満足して頷き、初めてその小さな身体を抱き寄せた。少し高めの子供の体温を感じながら、囁く。
「……頑張れよ」
 小さな手が、ノブツナの服を握り締める。急速に意識が遠のいて、視界が暗くなっていく。
 最後に、ありがとう、と聞こえたような気がした。


     ***


 がん、と頭に衝撃を受けて、ノブツナは覚醒した。じんじんと痛む頭に、思わず手を当てる。何か固いものが手に当たって、何気なくそれを掴んだ。改めて見てみると、刀だ。故郷から持ち出したそれは、ベッドの横の壁に飾ってあったのだが。ふと壁を見上げると、壁に刀を留めていた金具が取れてしまっていた。それで、重さに耐えられずに落ちてしまったのだろう。それが頭を直撃したのだから、それは痛いに決まっている。なにしろ、人を斬り殺すための道具なのだ――もしかしたら直撃したのではなくて、ベッドにいったん落ちてから当たったのかもしれないが、まあ痛いことには変わりない。痛む頭をさすりながら身を起こして、ひとまず刀をベッドに立てかけた。くああ、と大きなあくびをして、眠い目をこする。
(……なんか、変な夢だったな?)
 ぼんやりと考えて、首をひねる。変な夢だったのは覚えている。だが、肝心の内容をほとんど覚えていない。変で、楽しくて、でも少しばかり胸の痛む夢だった気がするのだが。いくら考えても、失われてしまった夢の記憶は戻ってこない。
「旦那さん、起きたニャ?」
 キッチンの暖簾をかきわけて、アイルーが顔を出した。ああ、と返事をして、のろのろとベッドを降りる。考えていても仕方がない。夢のことよりも、今日のことを考えなくては。そう、確か今日は、BASの3人と狩りに行くのだった。彼らの勢いに押されないように、気合いを入れてかからなければ。
 ぐっと伸びをする。朝食をとろうとキッチンに向かった時には、すでにノブツナは夢の事を忘れていた。






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