浮かれていた、







サンドリアスを去る日が、ついにやってきた。嫌で嫌で仕方なかったこの星も、住めば都というか、なんというか。…それに……。
彼の優しい眼差し、ドーマから守ってくれた時に包んでくれた強い腕。…好き。好きだった。好きで好きで仕方なかった。離れたくなかった。でも、その想いと同じくらい、後ろめたさも感じていた。私と彼は全く別の星の人間。本当ならこうして出会う事さえなかった、とっても遠い遠い関係。

でも、だからこそ私は運命を感じた。好きだという気持ちが、大きくなっていく。彼が、カゼルマが好きだ。




この星にはじめてやってきた時に着ていた服に身を包み、昨日のうちにまとめておいた荷物を持って、スターシップの外に出る。ファラムの技術でスターシップを超小型に折り畳み、ケースに入れるとすぐにサンドリアスイレブンの練習場へ向かった。
ファラム紫天王のバルガさんに挨拶に行き、それからすぐにファラムへ向け出発するためだ。バルガさんのもとへ行けばサンドリアスイレブンの皆とも会える、カゼルマとも会える。これが、最後になるかもしれない。だけど、この想いは伝えなくても良い、ただ…。………いえ、私は、…引き留めてもらいたいのかもしれない、彼に。彼が私を必要としてくれることを望んでいるんだ。

満たされたいんだ。彼に。
それは、大きな期待と少しの不安が入り混じった、とても浮かれた考えだった。だけど、もしかしたら彼も私と同じ想いを抱いてくれているかもしれない。とても、とても自意識過剰だと思うけど、でもそれでも、期待せずにはいられなかった。彼の私に対する態度に、言葉に、行動に。好きで好きで、仕方ない。彼に包まれたい、好きでいてほしい、引き留められたい、彼と、いたい。






私は、浮かれていた






「今までお世話になりました」


練習場に訪れた時から、少しだけ疑問には思ってたんだ。だけど浮ついていた私にはそれを都合よく解釈することしかできなかった。
サンドリアスイレブンの皆に囲まれ、私は一人一人に挨拶をしていく。その輪の中に、カゼルマはいない。少し外れた場所で、彼はただ、地面を見つめている。私は皆の輪から抜け出し、彼の目の前まで歩き、そして俯く彼を覗き込んだ。



「、カゼルマ」
「……ナマエ」
「カゼルマにも、お世話になりました。ありがとう」
「…ああ、」
「こ、この星も、まあまあ悪くなかったわ」
「……」
「………カゼルマ?」
「…そろそろ、戻らなくてもいいのか」
「…え?」
「君に仕事があるように、私たちも練習があるんだ。それに、これからこの星の命をかけた大切な試合があるんだ。早く練習をはじめたい、部外者は立ち去ってくれ」
「ち、ちょっと待ってカゼルマ、それってどういう意味?」
「みんな、練習をはじめるぞ。今日はバルガが入ってからの初めての練習だ、まずはフォーメーションから見直す」
「ちょっとカゼルマ!」
「そういう事だ、」
「そういう事ってどういう事よ!」


カゼルマの態度や言葉の意味が分からず、混乱してしまう。
考えてなかった、こんなこと考えてなかった。ただ、私はカゼルマにお礼が言いたかった、あわよくば、なんて思ったけど、でもそれがなくても、もっと後味の良いお別れをするはずだったのに、するつもりだったのに。
私はカゼルマの手を掴む。すると、彼は私の方を一切見ずに振り払った。強い、力だった。



「正直に、言う。君の仕事を手伝ったおかげで、私たちの練習時間はとても減った。…迷惑、なんだ」
「ど、ういう、意味?」
「…私の前から、消えてくれ。」
「……ずっと、そういう風に思ってたの?」
「…………ああ」
「…最低、最低、最低!カゼルマなんて嫌い、大嫌い!」










底に落ちた。



サンドリアスイレブンの戸惑った声が聞こえる。聞きたくない聞きたくない、バルガさんが珍しく焦った様子で私の名前を呼ぶ。聞こえない、聞こえない。荷物をひっつかみ、そして全速力で宇宙船へ向かう。乱暴にドアをあけ、乗り込みそして発進させる。右手が痛い、彼の頬を叩いた。じくじくと痛む。心が痛む。


家に入って可愛い弟たちに挨拶もせず自室に入り身に着けていた堅苦しい余所行きの服を脱ぎ散らかす。
私が返ってきたことに気づいたリュゲルが部屋の外から私の名前を呼ぶが、応えない。応えることができない。
布団にくるまって、光を遮る。縁どった睫毛も綺麗に引けた紅も。全部全部涙で流れ落ちていく。ああ、このまま全て流れて消えてくれたら良いのに。













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