運命なんて陳腐な言葉、好きじゃない。王子様に憧れたこともなかったし、溺れるほどの恋をしたこともなかった。 窓から砂の混じった風が吹いてくる。サンドリアスの建物はどこも吹き抜けで、彼らには住み心地の良い環境なのだろうが、私はこれが少しだけ苦手だった。何気なく窓に近づき、下を覗くと異星人異星人異星人。まるで爬虫類のような、サンドリアス人たち。
この仕事を与えられ、ファラム・オービアスから遥々こんな発達途上の星へ…最初は嫌で嫌で仕方なかった。この星の人はファラム・オービアスの人たちと見た目が違いすぎるし、正直気味が悪かった。 便利なものが揃うファラム・オービアスでは生活に困ったことはなかった。だがここはどうだ、私にとっては100年、いや、500年前にタイムスリップしたのかというようなくらい、それはそれは不便なことだらけだった。仕事じゃなければこんなところ、絶対来なかった!そう、…最初はそう思った。思ったのだが、でも今は、
サンドリアスの居酒屋に足を運んだのはこれが初めてだ。そして、もう二度と訪れることもないのだろう。吹き抜けの建物から見える月が優しく光る。 選手の一人に手招かれて、私はサンドリアスイレブンたちが座るテーブルに腰掛けた。丁度、目の前の席にはキャプテンのカゼルマ・ウォーグが座っている。彼と目が合うが、お互い小さく一礼し合うだけだった。普段はよく話をするくらいには仲が良いけれど、どうもこういう場では気恥ずかしさが勝ってしまう。
あと数日でファラム・オービアスに帰らなくてはならない私を、サンドリアスの選手たちが気遣ってくれて、飲み会という名の送別会を開いてくれた。 此処に来て早二週間、最初は少しだけ警戒されていたけど何とか打ち解けることも出来た、気もするし…。
私の仕事は、スタジアムを設営する場所にふさわしい土地を探し、問題がないかどうか検査すること。そしてじきにやってくるファラム紫天王のバルガさんをサンドリアスイレブンの皆の所へ案内すること。 これが終われば、私はファラム・オービアスに帰還できる。もちろん…もちろん、早く帰りたい気持ちもあるけど、それと同じくらい此処にいたいという気持ちもある。
ファラム・オービアスより便利なわけでもなく、思い入れがあるわけでもないのに…なんでこんな想いを抱いてしまうのだろう。 名物のドーマの丸焼きを食べ、地酒を飲みながら…ふと周りを見回す。親睦会が始まってから早一時間、最初から勢いよく飲んでいたメンバーは机に突っ伏しており、その他のメンバーも目が虚ろだ。確かに、サンドリアスのお酒はどれも度数が高い気がする。
火照った頬を冷ますために窓際に寄ると、目の前に座っていたカゼルマが声をかけてきた。
「酔ったのか?」 「…よ、酔ってないよ?」 「……顔が赤いぞ」 「もう、酔ってないってば!そういうカゼルマだって酔ってるんじゃないの?」 「…ああ、そうだな。少し…酔っているのかもしれない」
カゼルマがグラスを傾けると氷同士がぶつかりクリアな音を奏でた。視線が絡む、微笑まれる、…。私は急いで手元にあったグラスを掴み中身を流し込んだ。くらりと一瞬視界が白くなったが、すぐに持ち直した。
そんな私の様子を見て少しだけ笑ったカゼルマは、私と同じようにグラスに口をつけた。
「サンドリアスは、どうだ?」 「どうだ、って…。ファラム・オービアスと比べて文化だって遅れてるし不便だし、サンドリアス人の顔、怖いし…」 「………」 「でも、サンドリアスの人はみんな優しくて、…カゼルマと喋るのも、す、好きだし?」 「…今日は素直だな」 「そんなんじゃない。うるさいなぁ」 「でも、そんな君と話すのは私も、…好きだ」 「……ば、ばぁか、カゼルマ、あなた、酔ってるんじゃないの?」 「…そうだな、酔っているみたいだ」
再び視線が混ざり合い、そして微笑まれた。心臓がぐるんと一回転して、ドキドキと波打つ。顔が熱いのは、アルコールのせい。アルコールのせい。アルコールのせい。……カゼルマの、せい。
「サンドリアスのお酒美味しいなぁ、……帰りたくないなぁ」 「…ナマエ」 「……、あ、カゼルマの飲んでるの飲みたい!」 「え、あ、ああ…ほら」 「、………美味しい、ね」 「ああ、そうだな…」
「(……アルコール、入ってないじゃない)」
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