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▼ 意地でも俺は真田のファンになんてならないよ




「幸村君て、今、好きな子とかいるの?」月に何度か回ってくる掃除当番の日、放課後の教室でクラスメイトにそんなことを聞かれた。全国大会まではテニスの事で頭がいっぱいで恋とか愛とかそんなこと考える暇さえなかったけれど、全国大会が終わった今も、なんだかんだ時間が空けばテニスのことばかり考えているから、結局そんなこと考えもしていないし、俺は「いないかな」とだけ答えておいた。

テニス部の連中は結構モテる。だから全国大会が終わり2学期が始まった今の時期は、女の子にとってタイミングの良い時期ってわけでありまして。毎日テニスコートに、なぜ夏よりも多く女の子のギャラリーが集まっているかなんて容易く想像出来る。



「きゃー仁王君!こっち向いて!」
「わっ、今私目があった気がする」
「てかあっちのコート丸井君いるー!」
「ほんとだ!ねえ赤也君も可愛い〜」



女の子って、純粋というか、ミーハーというか。耳に入ってくる会話に思わずクスリとする。テニスをしている姿をみてキャアキャアしてる姿は、小さな子供のようで可愛いらしい。隣に立っている蓮二は相変わらず無表情だけどね。
全国大会を共にした元レギュラーは、一人一人個性は強いけれども、皆テニスの力はあるし顔も整っている方だと思うし、確かに、女の子が騒いでしまうのも分からなくないかな。



「ねえ蓮二」
「なんだ」
「蓮二が女の子だったら、誰のファンになる?」
「...また唐突な事を」
「ふふ。気になったんだ。で、誰?」
「俺だったら、」
「うん」
「秘密だ」
「えー!そういうのはずるいと思うよ」
「そういう精市はどうなんだ?」
「俺?俺は...」



もしも俺が女の子だったら、一体誰のファンになるだろうか。モテ男代表の丸井は、普段おちゃらけてるけど実はお兄ちゃんで、結構男らしくて世話焼きなとこがある。若干不良の仁王は真面目とは言い難いけど、あの随時身体から分泌されてる色気はセクシーだし、さりげない気遣いにキュンとしてしまうかも。柳生は紳士的で誰にでも平等な優しさを持ってるし、ジャッカルは一緒にいればいつも笑顔にしてくれるし、蓮二は落ち着いてて大人っぽいけど、ときたまSっ気が見え隠れしてるから、女子からしたらたまらないギャップだろうな。真田はー...


「ねえ見て!真田君が一年生に球出ししてる」
「なんか真田君て、最近急にカッコよくなったよね!」



「......だ、そうだぞ精市」
「俺はまだ何も言っていないよ」



見た目はおじさん。中身もおじさん。なぜこんなにも老けてしまったのかと俺が心配になるほどのおじさん。この2年間、彼に何があったのだろうかと誰もが疑問に思うけどそれは置いておいて。今までは鬼の風紀だの地獄の番人だの風紀として恐れられていた彼は全国大会前、俺が病で倒れてからというもの人気に火がついたらしい。...この場所にいなかった俺の代わりに、全力で部を優勝に導こうと先陣を切った君には心から感謝しているけどね。



「かっこいいし、真田君て一途そうだし、なんか好きになっちゃいそう」


いや、真田はやめておいたほうがいいよ、っとこぼれ出そうな言葉を抑えるためにグッと口を紡ぐ。口うるさいし頑固者だし堅物だし一緒に泊まった時は朝4時に起こされるし病気で弱ってる俺に問答無用で鉄拳制裁食らわせてくるし俺が男だから良いものの結構奴はぶっ飛んでいるとこがある。......でも、強くて真っ直ぐで、底のない優しさを持っていて、いつだって俺が倒れそうな時には側で支えてくれる。きっと真田は、好きな子が出来ても一途だよ。なのになぜ俺はーーなんか、好きになっちゃいそう≠サの言葉に、一瞬だけ心臓が痛んだんだろう。



「...」
「精市?」
「蓮二かな。ファンになるなら」
「そうか。」



蓮二は少し驚いた表情を見せ、それから優しく笑った。



意地でも俺は真田のファンになんてならないよ


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