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▼ 花のない季節




肌にまつわるような風の冷たさに深まりゆく冬を感じる。踏まれた落ち葉は乾いた音を立ててみじんに押しひしゃがれていた。


いつからだろう。羽を奪われた鳥のように、自由が利かなくなったのは。2年生の全国大会が終わり、秋が過ぎた頃から、段々とラケットを持つ手の感触が奪われていくのを感じた。それから、走る度に、周りのレギュラーよりも何倍も息が切れるのを感じた。最初は疲れからくるものだと、単純に考えていたんだ。部長という立場になってから、来る日も来る日も、テニスのことと、三連覇のことしか眼中になかった。全てを1人で抱え込みすぎていた気がする。



「..幸村。」



「あ..すまない、なんだい真田」



「..最近、体調がすぐれないのではないか?」




「そう、見えるかい?少し貧血気味なせいかもしれないね」



そう俺が目を逸らし微笑めば、それ以上真田は踏み込んでくることはない。この男は、昔からそういう男だった。



錆びついたロボットの足のように、一歩一歩が重くなる。その事を感じていながら、俺は絶対にその事を隣を歩く彼に伝えようとは思わなかった。もし仮に、俺の身体の変化を伝えたいと思う奴が現れたとしても、それはきっと真田じゃない。



隣を悠々と歩く彼にだけは、自分の弱い姿を見せたくはないと思った。彼は昔、一度だけ俺に言ったことがある。「幸村、お前は俺の永遠であり俺の全てだ」と。真田にとって、俺は永遠のライバルと言いたかったのかもしれないし、憧れと言いたかったのかもしれない。はたまた、本当に真田の全てが俺で埋め尽くされているのかもしれない。


それにどんな意味が込められていようとも、俺は、彼の中で、永遠に君臨し続ける存在でありたいかった。だからこそ、この鉛のように固まってしまいそうな身体のことも、明日にはこの道を君と歩けなくなってしまうんじゃないかという不安も、君にだけには教えてあげないよ。





「ゆきむ」


「だめ、今は前を向いていて..真田。」




溢れ出しそうな涙を隠すように、
俺は静かに身体を真田の身体に寄り添わせた。





花のない季節


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