▼ 友達以上恋人未満。2
生意気な一年生が我が立海テニス部に入部してきた。
名前は切原赤也。
彼は入部早々、「俺はこの学校のナンバーワンになる!」と宣言し、去年全国制覇した三年生に試合を挑むと見事完勝した。もちろん、三強と言われる俺達には手も足も出ていなかったけどね。
真田と彼は初めて見た時から似ているなと感じていた。負けず嫌いで、他人から見たら阿呆なくらい無鉄砲なところ。他人から指図されることが嫌いで、自分の選んだ道をただただ突き進むようなところ。
真田も赤也も頑固者だから、理解し合える日はなかなか来ないだろうけど、真田は結構赤也のことを気に入っていることは、見ていて伝わってくる。
「うーん、妬けるなあ」
「..赤也のことか」
放課後に取り残された教室で、蓮ニと俺は2-Cで部活の課題を書かされていた。今頃真田は副部長として赤也含む一年生を熱血指導しているところだろう。
「赤也も随分とお気に入りになったものだ」
「ふふ。ね。赤也は副部長厳しいっすよ〜とか言ってるけど」
「それも弦一郎の愛だろう」
蓮二の一言に同意したものの少しだけ残念な気持ちになる。
「今までは、俺しか見てなかったのになぁ」
「そうだな。俺はいつか幸村を超えるだの幸村は俺の永遠のライバルだの一年の頃は兎に角うるさかったな。」
「ふふ。まあ手塚もいたけどね。」
「ヤキモチか、精市。」
蓮二は一旦ペンを置くと、いじけて机にうつ伏せた俺の頭をポン、とたたく。
「赤也は赤也だ。精市も他の男と馴れ合ってみろ。弦一郎は黙っていないはずだ」
「そんなものかなあ」
蓮二を見上げると、俺が少ししょげていたからか、そのまま犬を愛でるように頭を撫ではじめた。
「もー蓮二」
なんだかその手が優しすぎて思わず頬が緩む。
「蓮二...犬でも飼ってたっけ」
「いや。どうした、眠くなってきたのか?」
「ふふ、そうだね」
真田もだけど、蓮二も結構俺に優しいよなあ。なんて思っていると、突然爆音のような大きな音で教室のドアが開かれた。何事かと思い2人してそちらに目を向ければ、そこにいたのは帽子を深くまでかぶり仁王立ちしている真田だった。
「やけに遅いと思っていたが。蓮二に幸村。2人で何をしているのだ。」
真田には遅れる理由もきちんと言ってあったはずなのに、鬼のような形相で声を荒げた。
「...言っただろう?部活意欲向上のための作文を書いていたんだ。」
「そうではない。お前たち2人で何をしていたと聞いてるんだ」
「だから作文を」
「俺が聞いているのはそうゆうことではな」
「弦一郎。すぐ終わらせるから先に部活に戻っていろ。お前のことだ。一年生の指導の途中で抜け出してきたんだろう。」
蓮二が困り果てたように真田に告げると、真田は少し顔を歪めて、今度は静かに扉を閉めて出て行った。かと思いきやもう一度開けると、
「幸村」
「..なんだよ」
「今日は共に帰るぞ。自主練終わりまで付き合ってくれ」
それだけ告げて真田は部活へ戻っていった。
「なんなんだあいつ」
「弦一郎も単純だな。」
蓮二はそう楽しそうに呟くと、散々なでくりまわした手をようやく離してくれた。もう、髪がボサボサじゃないか
「もう、髪がボサボサじゃないか。と思っている確率100%」
「分かっているならやるなよ…全く」
「気持ちよさそうにしていたのはどっちだ」
「ふふ、俺か。
それにしても真田ってば、ほんとに自分勝手なんだから」
友達以上恋人未満。2
そんなところも、嫌いじゃないけどね。