▼ 入院日記
赤也が病室の扉を開けると、いつもより少し儚げで、寂しそうな表情で外を見つめている幸村君がいました。
「ゆ、幸村部長!」
「やあ、赤也。今日は1人かい?」
「そうなんすよー!」
3年生が進路ガイダンスのため、学校を抜け出し部活が始まるまでの時間お見舞いにきた赤也君。
「二人きりで話すのなんて、滅多にないから嬉しいね」
ニッコリ、と幸村君は笑います。赤也君は思いました。この人、テニスしていない時は本当にのどかで優しい人だなと。
それにしても今日はいつもの幸村部長ではないと赤也君は思いました。心なしか、元気がないように見えたのです。
「幸村部長、もしかして体調悪いですか?」
そう尋ねると幸村君は驚いた表情をして言いました。
「赤也って、馬鹿なのにやけに鋭い時あるよね」
「馬鹿は余計っス」
「ふふ、ごめんごめん。
今日はなんだかね..いつもより眠たくて」
俯いて静かに微笑む幸村君を見て、赤也君はどうしようもなく胸がキュウ、となりました。
全く気に留めていなかったこと。いつの間に肌がこんな白くなったんだろう、腕が細くなったんだろう。
目を離せば消えてしまいそうなほど儚げな彼を見て、突然大きな恐怖に包まれたのです。
「赤也..?」
気づけば赤也君は持っていた鞄と花束を放り投げ幸村君に抱きついていました。
「赤..」
「部長っ、大丈夫です。必ず部長はコートに戻れます。絶対。それまで、俺、待ってますから!」
赤也君はすごく怖かったです。でも、一番怖いのは幸村部長自身だと知っていました。だからこそ、赤也君は幸村君に自分の弱い姿は見せまいと誓ったのです。
「ねっ部長!」
肩に埋めていた顔を上げ二カーッと馬鹿っぽく笑うと幸村君もつられて笑い始めました。
「赤也は本当に馬鹿だなあ。
..俺は必ずコートに戻る。だから..待っててくれ、赤也。」
ベッドに座る赤也君を再び抱き戻し、幸村君は誰にも聞こえないくらいの小さな声で、ありがとう。と告げるのでした。