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今日呼び出したのは、学年でも可愛いと定評のある、黒髪ストレート系美少女の夏樹ちゃんだ。


「幸村精市?」


そんな彼女との会話中、聞きなれない人の名前に思わず首を傾げた。



「テニス部の子なんだけど、綺麗で、かっこよくて、王子様みたいな人なの!」
「ほーう、そうなんか」
「仁王君知ってる?」
「や、俺は男には興味ないからのう」
「もう、仁王君たら」



頬を膨らます彼女に謝りつつ、桜並木の道を歩く。

俺たちは今、テニスコートに向かっていた。遡る事30分前。癒しを求め夏樹ちゃんを呼び出せたのはいいものの、夏樹ちゃんに[幸村精市君の試合を観に行きたいから、一緒にテニスを観覧してほしい]と言われ、自分としてはあまり興味はないが、2人でテニス観戦をする事になった。本来ならば学外でカラオケしたりお茶したりいいことをするのが目的であったのだけれど。まあ一緒にいられるだけで本望か。


待ち合わせしていた下駄箱から、テニスコートへは5分ほどで着いた。誘った当の本人は「彼」の試合を見るのは初めてらしくどこか落ち着きのない様子である。そして意外や意外、部活であるにも関わらず数え切れないほどの人が見学していた。テニスの名門校である事だけは知識として入れていたが、まさかこれほどまでに見学者、いや、女子の観覧者が多いとは。



「一応3時から幸村君の試合が始まるらしいから、ここで見てよっか」
「それにしても見学者が多いのう」
「そうだねー、名門校っていうのもあるし、それに今年の代はイケメンが勢ぞろいだからね」
「ほーう」
「仁王君、丸井ブン太君とか知ってる?」
「あー、あの赤髪ガムか」
「ふふ。赤髪ガムなんて失礼ー!柳君とか真田君とかも、テニス部なんだって」
「ほーう、結構有名どころが揃ってるんじゃのう」
「あっ、でも私は仁王君がー...」




彼女が何かを言いかけた途端、審判の声がコート中に響き渡る。



「これから、幸村精市vs真田弦一郎の試合を始める!」



全員の視線は一気にコート上の「彼」に集まった。彼の名は「幸村精市」といったか。どれどれ、彼女が王子様と褒めたたえるほどの男はどれほどのスペックなのかと、どうせ自分よりも優れてはいない男でだろうという根拠のない自信を持ちながら、周りと同じように視線を移す。

ふわりと揺れる藍色の髪を見て、思わず目を見開いた。



なんといっても、その幸村精市と呼ばれた男は、先程自分の頬にきついビンタをくらわせた、まるで彫刻のような美しい少年であったからである。




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