すたんどばいみー!
聞き慣れない洋楽に、
聞き慣れない洋楽を口ずさむ精市。
見慣れない屋上からの景色は
澄み渡る空に手が届きそうな、
そんな蒼だった。
すたんどばいみー!チャイムが校内に鳴り響くまで残り5分。お昼ご飯も食べ終わり、小説でも読もうと本を開いた途端、教室に飛び込んできた精市に捕まってしまった。教室中の視線を浴びながら連れていかれた先は、屋上。
何か大切な話でもあるのかと思いきや、返ってきた答えは「なんとなく」。
残念ながらしばらくたった今も彼に帰る気は無さそうなため、このままいくと俺は初の授業放棄をすることになるだろう。
「空に飲み込まれてしまいそう」
呑気なことを言いながら寝そべる精市にため息をおとす。
「何を言っているんだ。」
「蓮二も思うだろう?
久しぶりの雲一つない快晴だ」
今日の空は、飲み込まれてしまいそうなくらい青が深い空であり、あまりに綺麗すぎて目が離せないくらい、見上げた世界は輝いていた。
ぼんやりと眺めても、雲一つ流れはしない。穏やかな日常だなと思う。少し温かな気温は精市を夢の世界へと誘いこみ、俺は一人、ぼんやりと座っているだけであった
「すたーんどばーいみー」
眠っていたはずの彼が口を開く。
「〜♪」
某歌手が歌いヒットした20世紀を代表する有名な洋楽。サビ以外の歌詞が分からないのか永遠に同じメロディだけが屋上に響き渡っている。
透き通った美しい歌声と、温かな春の陽気にだんだんと瞼が重くなり、俺は静かに瞼を閉じた。
精市の歌声が耳に響く。
急に声が近くなったなと感じ目をあけると、そこには眠そうな顔をした彼の姿があった。
「精市?」
確か横になっていたはずなのだが、なぜか膝の上にまたがり顔を近づけている。突然起き上がったからか藍色の髪はボサボサだった。
「ねえ蓮二、俺の髪直して」
これくらい予想出来たはずなのだから、しばらく寝てればいいものを。なんて思ったが口には出さず髪を静かにとかし始める。気持ちが良いのか、眠いからなのか、どちらかは分からないがうっとりとした表情があまりに無防備なため、ついつい襲い掛かってしまいたい衝動にかられた。
幸せそうに微笑む愛しい人
今自分の顔はどうしようもなくたるんだ顔をしているのだろうな。
「何にやけてるんだよ」
「…幸せだからだ」
「?」
「精市、愛してる」
耳元で囁いてやれば、彼は顔を真っ赤に染め視線を泳がせた。たまに出る素直なところは愛おしくて仕方なく、力いっぱい抱きしめてやった
「っ、なんだよ」
「思ったことを述べたまでだ」
「…恥ずかしい事言うなよ
珍しい…愛してるなんて」
「たまには良いだろう」
晴れ渡った空に
温かな陽気
大切な仲間に
好きなテニス
そして、わがまますぎる愛しい人
本当は、
灰色で覆われた空であっても
寒い寒い最悪な気温であっても
大切な仲間がいなくても
テニスが嫌いになってしまったとしても
俺はお前がいれば
それだけで満足なんだ、と言えばお前はまた少し怒るのだろうな
授業の始まりを告げるチャイムが校内に響き渡り、俺達は顔を見合って笑いあって、静かに口づけた。
たまにはこんな1日もありかもしれない
大切な、あなたの隣で
「 」