もにたんとギャルの出会い

話は茂庭達が伊達工業高校に入学時まで遡る。

新生活、真新しい制服に身を包みこれから始まる新生活に心弾ませる四月。逸る気持ちで校門を潜り、自身のクラスを確認すると茂庭は一年C組へと歩を進めた。

彼はその時既にバレー部への入部を決めており、県内屈指の強豪へと進学が決まったときには嬉しさ半分、不安半分といった心境であった。部員が多いことで知られる伊達工業、その中でのレギュラー争いは並じゃないだろう。覚悟を胸に憧れて止まなかった校舎の廊下を踏みしめる。まだゴム底が新しい上履きは時折きゅっ、きゅっ、と彼の足元で音を鳴らした。
そのときである。

女子トイレから出てきた凄い見た目の女子に茂庭は面食らう。入学式は午前、午後からの始業式まで殆ど登校していない上級生ではないのだとすぐに悟るが如何せん奇抜な見た目をしているため本当に同級生なのか疑うほどである。なるべく関わらないようそそくさと立ち去る茂庭であったが彼のそんな願いも虚しく、彼女は人のよさそうな茂庭に早速話しかけた。

「スミマセーン、校舎案内してください迷っちゃったー」

間延びした話し方の彼女は、思ったよりずっと人懐こい性格らしく茂庭もそれに安堵する。

「俺一年だから案内とかできないですけど」
「マジ!?え、タメ!?嘘でしょ〜」

まだあどけなさの残る茂庭であるが、落ち着いた彼の様子に彼女はどうやら上級生だと勘違いしていたらしい。彼女の言葉をそっくりそのままお返ししたいところだが、一年の階までなら一緒に行けると言う旨を伝えると奇抜な彼女はカラコンで宇宙人のようになっている目を輝かせた。

「ほんと君恩人!助かる〜」

頻りに大袈裟な感謝を述べる彼女に茂庭はなんとも言えない気持ちになる。

「ていうか玄関に校舎の地図貼ってなかった?見なかったの?」
「なにそれー、知らなーい。クラスしか見てなかったー」

本当に大丈夫かよこいつ、と呆れる茂庭。この派手な人と同じ学年ということに茂庭の方が一抹の不安を覚えるが、自分はこれからバレーに青春を捧げる気でいる。きっとこの人と関わることは金輪際ないだろうと思っていた矢先のことである。

一年の階まで昇ると「ありがとう、助かったー。君のことは一生忘れないよー」とまたしても大袈裟なことを言われる。

「そんな、別にいいよ。じゃあ俺はここで」

そう言い残しC組の教室に入ると、彼女もそれに続く。

「え、ごめんもしかしてC組?」
「そだよ〜。あ!もしかして同じ?やっだー運命じゃーん」

心の底からごめん被りたい運命であるが、彼らの不思議な縁はそこで終わらなかった。
黒板に貼っている自分の席順を書いた紙を確認する。茂庭の隣は女子であった。工業高校に女子が少ないことは覚悟の上、しかし人格者茂庭とて年頃の男子である。隣の席になるというみょうじなまえはどんな子だろうか。期待に旨を弾ませ自席につく。そして彼に続いて隣の席に腰を下ろしたのは。

「って、お前かよ」

初対面にも近い彼女に、思わず突っ込みを入れてしまうほどに茂庭は落胆した。もう金輪際関わらないであろうと思った人と同じクラスどころか隣の席である。肩を落とす茂庭とは反対に奇抜なギャルもといみょうじなまえは嬉しそうに笑った。

「え、茂庭要って君!?ほんと運命じゃん!やばくない!?あたし達今日からマブダチね!」
「はあ?なんでだよ」
「だって運命だもん!」
「ごめんその理屈わかんない」

彼女は茂庭と友達になりたがったが、彼は寧ろ逆の印象を持っていたため少しだけ申し訳なくなる。だが素直な好意を無下にする茂庭ではない。それに加え新入生、まだ仲の良い人は殆どいない。友人第一号がこいつで本当に良いのか迷うところではあるが断る理由も見当たらないのである。

「マブダチとかよくわかんないけど、まあよろしく」
「よろしくもにたん」

早速渾名をつけられ疑問も沸くが、不思議な理論を振りかざす彼女になにを言っても仕方ないと彼はその時既に悟っていた。


そして入学式、早速体育館の前で生徒指導部に捕まったなまえの様子は明らかに浮いている。

「お前なんだその格好は」

このとき彼女を指導した強面の教師こそが後の追分拓朗先生である。追分先生の言うことは全くもってその通り、とは言え入学早々目をつけられ気の毒に、と思う茂庭含めた同級生達であるがその心配は杞憂に終わる。

「入学式だから気合い入れすぎちゃいましたー」

あっけらかんと言ってのけ、その上けらけらと笑う彼女の様子に度肝を抜かれる。冷静な追分先生としては珍しく堪忍袋の緒が切れそうになっている。そのまま生徒の群れから外され体育館の隅にてこっぴどく叱られているなまえの入学式は追分先生の隣で参加することになったのである。


「っていうこともあったよね〜」

そして現在、そんな伊達工屈指の問題児のなまえも高校三年生である。
新学期恒例服装検査で今日も元気に指導を受ける彼女に追分監督はぴしゃりと言い放つ。

「お前は一体いつになったら直してくるんだ」
「直したじゃーん。今日上しかつけましてないんだよー」
「個数の問題ではない、外せと言っているだろう」
「髪もアッシュにしたから前より暗いじゃん!」

何度指導してもこの調子である。最早溜め息しか出ない追分先生だがこれも生徒とのコミュニケーションといえばそれまでである。生徒指導部としては決して譲れないが。

「新入生が真似したらどうするんだ」
「友達になる!」

あの日と同じく体育館の隅にて行われているそのバカなやりとりを聞いている茂庭は、あの日からずっと彼女の世話を押し付けられているため人知れず溜め息を吐いた。

「あいつ今日何枚反省文書かされるか賭けようぜ」

とネタにすらされているが茂庭としては冗談ではない。その反省文は俺が手伝わされるんだよ!と心で叫ぶ。

「おい、鎌ちも連れてかれたぞ」

こそっと耳打ちした笹谷により金髪の大男が生徒指導部に連行されている背中を目にした茂庭の心労は二倍である。

「もうあいつらいい加減にしろよ」

こうして始まった新学期。過去の経験上、今年一年を思うと胃が痛くなる茂庭。だがこのとき彼は、更に問題児が新入部員としてやって来ることなど知らなかったのであった。

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