3年C組作戦会議

某日。
3年C組にはただならぬ雰囲気が漂っていた。約半月後に行われる体育祭に向け、かの武闘派A組と因縁のB組を倒さんと燃えているのだが、如何せんC組は頭脳派の集まりであるため体育祭や球技大会で一度も彼らを負かしたことはない。高校生活最後の体育祭は悲願である優勝を、そうは思うも全員の能力が突如上がるわけでもなく、こうしてHRを設けたわけであるが。

「はいはーい!あたしこれも出るー!!」

なにも考えていない様子のなまえは、とりあえず高校最後だし全部出たーい、という安易な考えだけで次々と挙手していく。運動神経はよいので誰も異論を唱えず、この日ばかりは彼女が頼みの綱となったわけである。

しかしそうもいかない競技が伊達工業高校にはあった。それは伊達工業高校恒例、三年生による騎馬戦である。この種目は毎年三年生だけが出場でき、かつこれに優勝すると他種目より点数が高いため優勝候補に一気に躍り出ることができる。A組は体力自慢の鎌先が騎馬の上に乗ることや、B組はラグビー部と柔道部が下を固めてくることが容易に予想できる。それに勝つための作戦を男達は考えた。これは男のプライドを賭けた熾烈な争いである。

「でもうちのクラス、飛び抜けたやつがいないんだよな〜」

クラス委員である茂庭が呟くも、その通りなのである。運動においても頭脳においても、全てにおいて平均以上にそつなくこなすのだが他のクラスを圧倒するようなものがないところがここに来て痛手となる。それを全員わかっているため、騎馬戦のメンバーに迷っている現状である。

「あ、じゃあこれもあたし出る!」
「だめだよ、お前女子だろ」

またしても楽観的な彼女が名乗りを挙げるも、それを一刀両断する茂庭。いくら彼女が唯一の体力馬鹿とは言っても、C組だけ騎馬戦に女子が出るなどこれほど男として情けないことはない。しかし打開策が浮かばない男達は、どうしたものかと考えるが。

「じゃあもにたんが騎馬の上やればいいじゃーん」

ムッとしながら匙を投げた彼女の一言が皆腑に落ちたのか、納得したように賛同の意を唱える。それに慌てるのは当の本人、茂庭である。

「ちょ、え?俺?」
「もにたんがいいと思ーう」
「俺もいいと思ーう」
「え、笹谷までなに言ってんの?」

いつもなまえより一枚上手の笹谷であるが、この日だけは彼女に加担した。というより進まない話がまとまらないためどうでもよくなっているのが本音だろう。

「いや、俺無理だって。鎌先とやり合って勝てるわけ、」
「うちのクラスで鎌先と違う意味で対等なのみょうじしかいねえよ」
「ねえ、あたし今笹やんにディスられてんの?」

状況のよくわかっていないなまえはひとまず置いて、「茂庭ならなんとかなる」や「寧ろ茂庭しかいない」という声が教室中から囁かれる。

「じゃあ決まりー。騎馬戦第一号もにたんねー」

仕方なしに黒板に自分の名前を書く茂庭。しかし騎馬戦は茂庭一人ではできない。これからどうしたもんかと、未だ終わったわけではない話に溜め息を吐く。が。

「やっぱあたし騎馬の下やるー」

後ろの方から聞こえてきた言葉に度肝を抜かれた茂庭である。

「お前女子だからだめだって、他のクラスが気遣うだろ」
「やだー、あたしももにたん守るー」
「気持ちは嬉しいけどさ……」

騎馬の上ならまだしも、いくら温厚な茂庭とて女子に担がれるなど耐えられないのだろう。だからといって騎馬の上を彼女に任せるのは男のプライドに関わる。そもそも騎馬戦に出たいという女子など聞いたことがない。

「お前は騎馬戦以外ほとんど出るんだから騎馬戦は温存な」
「えー」
「えーじゃない。だめなもんはだめ」

諭すような言い方をしても珍しく納得しない彼女をバッサリと切り捨てる。しゅんとした彼女であったが、やがて名案だとばかりに顔を上げた。

「じゃあ笹やん、あたしの分までもにたんよろしく」
「え……」

ここでまさか話に出されるとは思っていなかった笹谷が口元を引くつかせる。かつては鉄壁を共に作り上げた仲間である。道連れだと言わんばかりに勝手に黒板に笹谷の名前を書く茂庭。問答無用である。

俺が出るならお前も出ろ、とそこから芋づる式に候補者が挙がり、なんとか騎馬戦のメンバーは決まる。そしてもう一つ、クラス対抗の大事な競技がある。

「次、リレーだけどどうする?」

茂庭が言うや否や「はーい!あたし一区かアンカー!!」と名乗りを挙げるなまえ。アンカーはどのクラスも毎年男子である。ならば心臓が恐ろしく強い彼女が一区か、とほぼ納得した茂庭であったが。

「いや、みょうじは最後の追い上げでアンカーの茂庭に繋ぐ役割だろ」
「待て待て待て、なんで俺がアンカーって前提なの」

当たり前のように発した笹谷の言葉に、なまえは嬉しそうに「もにたんに繋ぐ!あたしがんばる!!」と張り切っている。先ほど騎馬戦に道連れにした笹谷なりの仕返しだろう。

結局、ノリと人望だけで大事な役割を押し付けられまくった茂庭と道連れの笹谷、そしてノリだけで体育祭ほぼ全ての競技に出場するなまえ達は3年C組のキーマンとなるのであった。

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