07
模擬店の賑わいは尋常じゃなかった。
クラスで一番可愛い黒尾の隣の席の子目当てに男子生徒が押し寄せてきたり、黒尾やサッカー部の主将目当てに女子生徒が押し寄せてきたり。
あとは黒尾の幼馴染みだという一年生の男の子も、端でゲームをやったり黒尾にこき使われてお茶を入れてくれたりした。自分のクラスの模擬店は大丈夫なのだろうか。大人しい子だったけど悪い子ではなく、素直だ。
「研磨くん?だっけ、手伝ってくれてありがとう」
「いいよ別に。クロがゲームやってんなら手伝えってうるさいし」
私と目を合わせてくれないのが寂しいけど、黒尾と夜久以外とは目を合わせないところから、男女隔てなく人見知りなのだろう。
「ヘイヘイヘーイ!黒尾、遊びに来たぞ!」
教室に突然大きな声で入ってきたのは、梟谷の制服を纏ったご一行様だった。なんだ殴り込みか?黒尾そんな悪い奴と面識あるのか?みんな背が高くてがたいがいい。
「木兎うるせえ。今混んでるからあとで来い」
「何だよ折角来たのに!」
梟谷の集団はどうやらバレー部らしい。夜久や研磨くんも面識があるらしく、お互い言葉を交わしている。
「そういや噂の子ってどれ!?」
銀髪でツンツンした髪の一番元気な人が教室をキョロキョロ見回している。黒尾の隣の席の子なら、今他校の男子にアドレスをしつこく聞かれている。
「お前、ほんとうるせえ!帰れ!」
チラッと黒尾の視線が私に向いたのがわかって、もしかして噂って私のことかと一瞬自惚れる。
「あ!わかっちまったー!」
黒尾とは違う感じに尖った頭をひょこひょこさせてこっちに来る銀髪に身構えて、咄嗟に私は「いらっしゃいませ」と業務的なことを言う。今絶対そういう場面じゃないのはわかっているけれど、想定外のことは苦手だしマニュアル的なことしか私はできない。
「名前なんていうの?俺木兎!」
「みょうじです……えっと、何飲みます?」
「肉!!」
ダメだこの人、話通じない。でもちょっとおもしろい。悪い人ではないんだろう。木兎さんはきっと名字だろう、だから私も名字で名乗ったのだけれど、木兎さんは首を傾げた。
「なまえちゃんでしょ?黒尾の、」
「まじ木兎黙れ、それ以上言うな」
後ろからにょっと現れた黒尾に連れて行かれる木兎さんはそれでも私に手を振っていて、私も手を振り返すと黒髪の男の子が来た。
「すみません、木兎さんが迷惑かけて」
「いえ、別に、迷惑ではないですよ」
「あまり気にしないでくださいね」
身を縮こまらせて何やら話している二人の背中に視線を向ける彼が言いたいことは、皆まで言わずともわかる。冷やかされるのはクラスの中だけだと思っていたけど、私が思っているより事態は深刻化しているらしい。まさか他校の人にまでそんな噂が立っているとは。
「でも私と黒尾はそういうのじゃないので、ほんと誤解ですからね」
と、気にするなと言われても一応訂正はしておく。彼は切れ長の目を見開いて、そのすぐあとに小さく溜め息を吐いた。
「よく鈍いって言われません?」
「え、どういう意味ですか」
「いずれわかるんじゃないですかね」
話が終わったらしい木兎さんが黒髪の子を振り返り「赤葦ー!可愛い女子見に行くぞー!」と目をキラキラさせて私の隣の彼を呼ぶ。一体何を言ったんだろう黒尾。
木兎さん達を見送っている黒尾を眺めていると目が合ってすぐに逸らされた。
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