05

看板を作ったり、喫茶店の為の小道具を買い出しをするのは主に帰宅部が担当することになった。放課後や休みの日にも学校に来てわいわいやるのは結構楽しいし、運動部の子達も部活が休みの時などは手伝ってくれた。文化部の子達も部活の出し物の準備の間に顔を出したり手伝ってくれたので、準備は順調に進んで行った。

「あーもう男子塗るの雑すぎ。段ボール組み立ててよ」
「なーなー、この輪っか繋げるのどこまでやんの?」
「お花の紙足りなくなったから買いに行くけど他になんかいるー?」
「俺コーラ」
「ふざけんな」

クラスの雰囲気もまとまっていて、楽しそうな声が教室を包んでいた。普段話さない人とも沢山話せて、私もすごく楽しい。

「チーッス。やってんなー」

バレー部が早くに終わったらしく、ジャージのまま黒尾と夜久も参加する。沢山の制服の中に赤ジャージの二人はまるで目立っている。

「夜久器用そうだからこれやって」
「黒尾力強そうだからこれ開けといて」

部活終わりの二人にも、来た途端に容赦なく準備を手伝わせる様子が面白くて見ていたら、それを友達に指摘される。

「なになに、黒尾来たじゃん」
「夜久も来たよ」
「お疲れ様ハート、って言ってこなくていいの?」
「言うわけないでしょ。ていうか何、ハートって」

最近何かと黒尾と話すことに、こういう弄り方をされるのであんまり好きじゃない。まるで私が黒尾を好きみたいじゃないか。

「黒尾って女子とあんまり話さないから珍しいなと思ってさー。いっつもバレー部連中でつるんでるじゃん」
「そりゃそうだけどさ」

私と友人がぼんやり黒尾を眺めていたら、その視線に気付いたのか黒尾がこっちに向かってきた。

「お疲れ、なに?」
「部活お疲れーと思って」
「黒尾ジャージ姿もきまってるね、かっこいいね」

友達がニヤニヤしながら言うと「そりゃどうも」と返される。絶対面白がってる。

「ほら手ぇ止まってんぞ」

看板にペンキで色を塗っている途中だったので、黒尾の一言で作業を再開させる。黒尾も筆を持ち出して手伝ってくれた。

「今日何時までやんの?」
「学校閉まるまで」
「マジかよ。俺腹減ってんだけど」

食べ盛りの運動部男子には、部活が終わったあとのこうした小さい作業は苦行に感じるだろう。運動をしていない私でもお腹が空いた。

「じゃあなまえ貸すからコンビニ行ってきなよ」
「じゃあっておかしくない?」
「おー、行くぞみょうじ」
「私が行く意味。」

しかし面白がってる友人に「焼きそばパン買ってきてー」とパシらせる不良の真似をされながら言われたら、仕方ないので行くしかない。夜久も器用にお花を作りながら「俺にも何か買ってきてー」と黒尾をパシらせる気満々らしい。
財布だけ持って黒尾の背中を追いかけた。


日毎に日没が早くなるのを肌で感じながら、背の高い赤ジャージと並んで歩く。冬服に移行してはいるものの、夕暮れ時は冷える。

「寒いねー」
「お前寒そう。特に脚」
「女子高生はツラいんだよ」

ピュウピュウ吹く風にスカートが翻りそうになるのを何度も抑えていると、肩から黒尾のジャージが掛けられる。柔軟剤の優しい匂いと、黒尾のにおい。

「いやいや黒尾さん、あなた半袖じゃないですか」
「うるせえ。いいからそれ着てろ。見てるこっちがさみい」

その言葉をそのままお返ししたいところだけれど、ありがたく黒尾の匂いに包まれることにする。黒尾サイズのジャージは袖も着丈も長く、スカートをほぼ隠してくれた。

「ありがとう、洗って返すよ」
「お前半袖で俺を帰す気か。帰るときでいいって」

コンビニに着いて、真っ先にパンコーナーに向かっていった半袖の背中に、もう一度ありがとうと呟く。私も焼きそばパンと皆で摘まめるお菓子を持ってレジに向かうと、おでんが目に飛び込んできた。

「黒尾、おでんどれがいい?」
「あ?がんもと白滝とこんにゃく」
「オール練り物ですか、すみません、がんもと白滝とこんにゃくお願いします」
「奢ってくれんの?」
「だって黒尾寒そうだもん」

洗って返さなくていいと言われたので、せめてこれくらいはしたい。それに黒尾が寒そうなのは私のせいだ。

「わりいな」
「お互い様だよ」

秋に半袖の長身男子と、いかにも借り物のジャージを制服の上から着ている私を見て店員のおばさんは微笑ましく見ながらお会計をしてくれた。私と黒尾は決してそういう関係ではないけれど、もし自分がこういう場面に出会したら同じように思うだろう。
だから教室に戻ってまた冷やかされたことにも強く否定はできなかった。



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