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高校二年になって自分が今本当になりたかった高校生になれているのか放課後の教室で問う。
さっき付き合っていた彼氏に「ごめん、お前思ってたのと違ったわ」なんてフラれた私は本当に青春をしているのか。
大体、思ってたのと違うって何だ。勝手にイメージを膨らませて勝手に裏切られているのはそっちじゃないか。
だけど高校に入って、この理由でかなり、フラれている。全部向こうから告白してきたのに。友達にも「いい奴だから付き合ってみればいいじゃーん」なんて軽く言われて、それもそうだなと思って付き合ったらこのパターンだ。もう嫌になる。

別に私も好きだったわけじゃない。でも好きと言われることは純粋に嬉しかったし、誰か特定の人に好意を寄せているわけじゃなかったから付き合っていた。私も大概なのかもしれない。

高校二年の夏。
夏休みが終わってもまだ暑くて、暦の上ではもう秋でもまだまだ残暑だ。半袖のセーラーは体のラインを隠してくれないから、早く衣替えしないかな。私はちっとも謳歌できていない青春を、今のうちにしないと損だとセコい思考で机に腰かける。誰もいない教室に、部活をやっている生徒の声が遠くから響いてくる。これもまた乙なものだ。

「なーにやってんだみょうじ」

ぼんやり青春黄昏ごっこをしていたら、ドアからひょっこり黒尾が顔を出した。同じクラスの黒尾。あんまり話したことはなくて、デカイ図体と殺傷力ありそうな髪型、鋭い瞳がちょっと怖い。なんかたまにニヒルに笑うし。

「青春黄昏ごっこ」
「はぁ?なんだそれ」
「ちっとも謳歌できていない青春を今のうちに味わおうキャンペーン実施中」
「スゲー意味わかんねえ。お前思ってたの違うな」

まただ。私は思っていたのと違っていて、黒尾がニヒルに笑う。
意外性とかギャップなんてものも、それはある程度予測できる範囲のことが人の心を動かすし、そんなものはこの世にはありふれすぎていて有り難みなんて全然ない。人は予想しながら生きてるから、予想から反したことは好きじゃない。だから私もフラれたし、黒尾のことは黒尾らしいと思った。この時まともに見えるのは私よりニヒルな黒尾だろう。

「それ、よく言われる。そしてそれでよくフラれる。それも今さっき」

思えば夏休みのほとんどを友達と遊びに行くからと悉くデートを断ってしまったのが悪かったのか。海だって花火だってお祭りだって、付き合ったばかりのよく知らない男子と行くより友達と行った方が楽しい。それにそもそもあまり男子は得意じゃない。苦手でもないけれど。

「あー、そのショックで意味わかんねえ遊びしてたわけね」
「うーん、別にショックなわけじゃないんだよねー」

黒尾は私の前の席に後ろ向きで座った。これはガッツリお話する気満々だ。なんか黒尾、悪い意味で楽しそうな顔してる。

「てか黒尾くん部活は?」
「今日体育館使えねえからミーティングだけ。もう終わった」

そういえば、あと一ヶ月後には文化祭がある。うちの学校は文化祭が二学期だ。そのための準備で体育館を使っているのだろう。

「てかみょうじって彼氏コロコロ変わるよな」
「付き合ったら何か違うって言ってよくフラれるからね」
「なに、お前そんなよく知りもしない奴と付き合ってんの」
「だって友達が付き合ってみればー?って」

別に断る理由がないから、いずれ好きになれたらいいなあって、そんな風に付き合ってきた。自分のことを話すより、相手のことを知るために話も聞き役に徹していた。だけど私にも意思はあるから、自分の意見とか考え方を話すと何とも言えない顔をされるのだ。私はどんな人だと思われていたのだろう。

「黒尾さー、私のこと思ってたのと違うって言ったじゃん」
「悪かったって。お前がその理由でフラれたばっかって知らなかったんだよ」
「いや、それはいいんだけどさ。もう慣れたし。私のことどういう人だと思ってた?」

今日の今日までほとんど話したことのない黒尾に、何でこんな話をしているのか。黒尾は三年生が引退してからバレー部の主将になったらしい。だからやっぱり頼もしいし、何となくこんな話も付き合ってくれる気がした。
そして多分、直球で話してくれるとも。

「しっかりしててうるさくない女子」

と言った。
あー、だからか。こうやってちょっとふざけたこと言うとすぐに「思ってたのと違う」って言われるのは。だけど私だって年相応にはしゃいだりするし、できないことやりたくないことだってある。こんなギャップ、ただの損だ。

「でもまあ、」

私が腑に落ちない顔をしていたから、黒尾がまたニヒルに笑って続けた。

「俺はしっかり者のみょうじサンよりちょっとぶっ飛んでるみょうじの方が面白くていいと思うけど」

黒尾のその言葉に弁解とかそういう意味は含まれていなくて、少なくともこんな得にもならない意外性を持ち合わせている私のままでいいのだと、なんとなく思った。

「ありがとう黒尾。なんかすみませんね、失恋直後の可哀想な奴に付き合わせて」
「失恋って、どうせお前そんなにそいつのこと好きじゃなかったろ。知らねえけど」
「まあそうなんだけどさ」

フラれた直後で、私の青春って何なんだと思っていたけど、こうしてあまり話さなかった黒尾と放課後の教室で駄弁っているこの瞬間だって、立派な青春だなと私は思った。



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