そんなナマエと北の交流はゆるやかに続いた。体育館裏で告白されていて困っていれば北が助けてやり、ナマエは作った野菜を持ってくる。北のおばあちゃんがお礼にまた何か持たせる。「町内会の老人か」と尾白アランは言うが、ナマエは恋をしているし北はいつも巻き込まれているだけに過ぎない。当然進展もなにもないまま時間だけが過ぎた。
 もちろんそれでもナマエは充分幸せで、毎回新鮮に「北くん好き……!」と瀕死になりかけているのだが、ナマエにはささやかな願望がある。それは北くんと同じクラスになることだ。同じクラスになったら授業中の北くんの様子も見れるしもっと話せる。日直とか掃除当番とか同じになったり、体育祭とか文化祭とか同じクラスだと絶対楽しいよなあ。ナマエの妄想は膨らむ一方である。

 しかしそんなナマエの願望は、二年生で叶うことはなかった。クラス表を見て自分の名前より先に北の名前を探し、同じクラスに自分の名前がないことを確認したナマエは落胆した。新学期早々肩を落とし新しい教室に足を運ぶ。自分のではなく北の。

「……北くんおはよう」

 自分の席で真新しい教科書に名前を書いていた北が顔を上げた。

「おはよう。同じクラスか」
「ちゃう……」
「なんでおんねん」
「いややー! 北くんとおんなしクラスがいい!」

 北からの容赦ない一言にナマエはしゃがみこんで机の足にしがみついた。その様はお菓子を買ってもらえなくて駄々を捏ねる子供さながらで、北は呆れたようにナマエを見下ろした。

「しゃあないやろ。はよ自分のクラス行き」
「私もこのクラスで授業受けれんかな」
「席ないやろ」
「椅子ほしいとか贅沢言わん、立ってる、邪魔なら掃除用具入れの中とかでええ」
「それは授業受けてるとは言わんしどこのクラスも授業内容一緒やん。何しに来るん?」

 ニ年生になっても変わらずツレない北の言葉がナマエにぐさぐさ刺さる。ちなみにナマエが北を好きだというのはもはや周知の事実であり、聞いている周りの生徒は「ちょっとミョウジさん可哀想やな……」と同情し始めているが北は間違ったことはひとつも言っていない。ナマエももちろんそれはわかっているが、運命というものを憎まずにはいられない。真面目に生きてるんやから好きな人とおんなしクラスにしてくれたってええやん! ひどい! ナマエが憎んでいるのは神様ただひとりだけだ。

「なあ北くん、会いに来てもいい?」
「俺がなに言うても勝手に来るやろ」
「もっと優しく言うてよー! いつでも来たったらええよとか言うてよー!」
「いつでも来たったらええよ」
「ありがとう! 私のこと忘れんといてな」
「忘れんからはよ行き」

 後ろ髪を引かれながら手を振り、ナマエは自分の教室へとぼとぼと向かう。でもええんや。来年あるし。三年間同じ学校やし。ていうかクラスが違うくらいで私の北くんへの想いは変わらんし。そりゃ同じクラスがええけど。隣の席とかなりたいけど! 今年修学旅行もあるし「同じ班やね」とか言うて一緒に色んなとこ回りたかったけど! 新学期早々半泣きで廊下を歩くナマエのささやかな願望が叶うのは、まだ一年先のことなのであった。
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