東北の秋は、突如として終わりを迎える。それは今に始まったことではなく毎年そうなのだけれど、高校三年生という現実に直面したとき、冬の澄んだ空気は悪びれもなく全身に突き刺さるのだ。雪や冬の星空は嫌いじゃないけれど、今年に限っては来なくていいと思っている。
模試が終わってたまたま帰りが一緒になった茂庭と共に並んで歩く。彼は赤くなった鼻をぐるぐるに巻いたマフラーに埋めていて、その様子を見ていると冬の訪れを感じずにはいられない。真っ白な息を吐きながら、二人で歩を進める。

「そろそろ初雪か〜」

私が怪訝そうに言ったので彼は少しだけ顔を上げた。

「みょうじ冬嫌いなの?」
「いや?そういうわけじゃないけど」

この冬、私達は大学受験を控えていて、その結果の合否に関わらず高校生活は強制的に終わってしまう。それが寂しいだけ。寂しいから、冬が来なければいいと思っているだけ。

「やだなー卒業したくないなあ」

鉛色に染まる空を仰ぎ見てわざと大袈裟な素振りで言う。そうでもしないと、今、茂庭ですら手に負えないほど暗い声で言ってしまいそうになる。
茂庭は優しい人だ。そして、面倒見がよくて真面目な人。いつも明るくて、頼れる人。だから茂庭の周りには自然と人が集まるし私もそのうちの一人である。同時に、この人には頼る人がいるのだろうかとか、そんな余計な心配をしたりもする。

「高校生ってブランドだよね」
「え?なんだよいきなり」
「毎日学校行きさえすればよくて、それもめんどくさいと思ってたけど今考えると遊びに行ってたようなもんだなーって」

大人になれば手に入るものもある。それもわかっている。けれどきっと同時に失うものもあるのではないかとも思う。例えばこうして意味のないように感じる会話をクラスメートの男子と二人ですることや、冬の冷たい空気を肌で感じながら歩くこと。大人になったらもっと実のある会話をすることや便利に車を乗りこなして冬の寒さに凍えることもない。だけどそれが果たして幸せだといえるのか。意味のないことに意味を見出だしてそれを味わい尽くせる今この瞬間こそが幸せなのではないか。大人になったらそんなことができるのか、今私と一緒にいてくれる人達はいつまで私といてくれるのか、私はそれが何よりも怖い。

「でもみょうじも進学だろ?まだ学生が終わるわけじゃないんだしそんな焦んなくても」
「そうなんだけどさー。あーあ。制服デートをしてみたい人生だったよ」

結局、私の高校三年間といえば部活に友達に実習に、健全すぎるほど健全に終わってしまいそうな気がする。それもこれも、今私の隣にいる人を好きになってしまったばかりに彼氏という存在を作れずにいた。友人ののろけ話を聞いては羨ましくもなり、だけど好きでもない人と付き合えるほど私は大人ではなく紛れもなく高校生だった。

「ってわけで茂庭、制服デート付き合ってよ」
「え!?俺!?」
「いいじゃん減るもんじゃないしー」
「そうだけどさ、」

隣で何やら口ごもる茂庭の頬が赤くて、彼は寒いと顔が赤くなる体質なのかな、なんてそこまで鈍くはなれない。軽いノリになっちゃったけど、がんばって言ってみてよかったかなと思う。

「俺から言うつもりだったのに」
「え!?」
「いや、なんでもない。ほら行くぞ」

勇気出してよかった、なんてのは撤回して。どうせなら好きな人の口から聞きたかったかもと思う秋の終わり。鉛の空から一筋の光が差していて、そこから僅かに見える青空のように私はまだ青春を諦められそうにはない。

back
- ナノ -