「ウケるーまじギャグセンたかー!!」

六人の初対面の男女が酒を交わしながら話に花を咲かす。突然「ごめん!合コン人足りなくなったから来てくれない!?」と友人から電話が来たのは、仕事が終わって今まさに帰ろうとしているときのことだった。当然今日そんなイベントがあるとは夢にも思っていなかったからあまり可愛らしい服装はしていなかったし、化粧も髪も気合いなんてあったものじゃない。更に指定された場所は居酒屋だったけど、自宅まで車を置きに行くには間に合わない時間に合流することになっていたためお酒を飲めず、そんな適当さを酒のテンションで紛らわすこともできない。昨日、遅くても今朝言ってくれればよかったのに。

大学からの友人である幹事の子とは、卒業以来会う時間がなかった。新入社員で毎日怒られてばかり、覚えることばかりの多忙な毎日が続き、休みの日にまで人と会うのが億劫になってしまった。これもゆとり教育が生んだ産物だというのだろうか。

久しぶりの合コンは未だに大学のノリを引きずっていて、懐かしい感覚があった。時々職場の飲みに連れ出されることはあっても、こうしてバカ騒ぎするのは少し恥ずかしく思う反面、酒の力で関係なくなるのならば羨ましくも思う。

電話で一時席を立っていた男の人が戻ってきて、退屈そうに眺めているだけの私の隣に腰をおろした。

「飲まないの?」
「うん、いきなり呼ばれたから車で来てて」
「そっかー。代行に知り合いいるから呼ぶよ?」
「大丈夫、ありがとう」

確か、名前は月島さん。月島明光さん。明るく光ると書くらしいけど、本当に名前の通りに育った人なんだなと思う。席が離れていたときから目を引く整った顔立ちや長身、加えてこの性格。素敵な人だなあと思う、素敵すぎるとも。

「こういうの、あんまり好きじゃない?」

グラスに結露した水滴を拭くことでしか緊張を紛らわせない私を覗き込んで明光さんは言う。こういうの、ずるいと思う。少なくともかっこいい人は絶対やっちゃいけない。
彼が言う“こういうの”の意味するものは、男女の出会いを目的とした席、というものだろう。

「何回来ても慣れないよ」
「わかる。俺も」

男性陣は職場の繋がりで、明光さんは一番年下らしい。だからさっきまで明光さんは聞き役に回っていたのかと思っていたし、特におもしろいことを言わなくてもモテるからだとも思っていたけれど、こんなにかっこよくても合コンは慣れないのだと知って、少しだけ安心する。

「明光さんモテそうなのに」
「普段バレーばっかだからそうでもないけどな」
「バレーやってるの?」

言われてみると彼の長身や無駄のないしなやかな体型にも納得がいく。温厚そうに見えるこの人が勝負事に真剣になる姿はあまり想像できない。

「うん、学生の時からずっと」
「すごいね、卒業しても続けるの」
「忘れらんなくてさ」

そう言った彼の瞳に一瞬哀愁が宿り、完璧に見えるこの人にも後悔やそういう暗い思いが翳ることもあるのかと知る。それでも、そういう気持ちを隠してこの人は前に進むのだと思うし、笑うのだろう。その分、知らないところで唇を噛み締めるのだろう。

気付くと二人で話が盛り上がっていた。バレーの話をする彼は本当に楽しそうで、聞いている私も楽しい。高校生の弟さんがいて彼もバレーをやっていてたまに練習に混ざりに来ることや、地元が近くて私と同じく仙台で一人暮らししていること。男性陣の中では年下でも、私より年上だと思っていたら同い年だったこと。他にも仕事の話や好きな映画の話。素面ではつまらないと思っていた酒の席だったけれど、雰囲気だけでも充分に酔える。

こうして会はお開きとなり、席を立とうとするとき一番酔っ払っている男性が明光さんの元まで来た。その際、グラスを倒してしまい明光さんの服にかかってしまった。ハンカチを渡すと「洗って返すから」と律儀に謝られ、ハンカチなんて汚すためにあるものだからと制しても明光さんは退かなかった。ここまで拘るような人に見えなかったから意外に思う。

「わかってねえなー、また会いたいって言ってんの」

明光さんの頬が赤くなっているように見えるのはきっと酔っているからだし、変に前のめって期待するなと自分を律する。明光さんにまた会いたいのは私だって同じだけど。

「今日すげえ楽しかったから、なまえと飲んだら楽しいだろうな」

連絡先を交換しながら、そんなことを言われてやっぱり少しだけ期待する。そこに下心はあったとしても、この人となら飲みに行ってみたいとも思うから私は素直に頷く。

「言っとくけど変な意味じゃないからな」
「わかってるよ」
「だから次会うときはなまえも飲めるように俺が迎えに行くよ」

お酒を飲んだ人とは思えないほど真っ直ぐ見つめられて、酔うはずのない素面な私の体温が上昇する。上昇した熱はグラスにまで伝導して、カラリと音を鳴らして氷を少しだけ溶かした。それが恋に落ちる音で、或いは始まりのゴングなのかもしれないと恥ずかしいことを思った私は、目の前の彼に酔っているのかもしれない。

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