「月島の彼女来てるよ」

ほら、と指をさされた場所を見やると、校門の前でそわそわと落ち着きのないなまえがいた。今日は土曜日だから、学校に来る用事なんてないくせに何をしているんだ。

「何してんの」

部活が終わってジャージ姿のまま校門へ向かうと、僕に気付いた彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

「蛍に会いに来たの」
「土曜日なのにわざわざ?帰宅部の君が?」
「うん……ごめん、迷惑だったかな」

僕は彼女が来ることをあまりよくは思っていなかった。現に後方で部員が興味津々な様子でこちらを窺っていた。主に田中さんと西谷さんと日向。だから嫌だったんだ。

僕がこうして彼女と向き合っていることを冷やかされるのも嫌だったし、彼女に必死に練習している自分を見られるのも嫌だった。東京に遠征行ってから変わったね、なんて嬉しそうに言う彼女に、少しだけ気恥ずかしく思う。最近では兄のチームの練習にも混ざりに行っていたから、彼女との時間はほとんど取れずにいたけれど。

「とりあえず場所変えよう。ここだと目立つし」

嬉しそうに笑ったかと思えばまたすぐそわそわしだした彼女を促すと、小走りで僕に着いてくる。

本当は彼女が今日、僕が嫌がるのを知っていて会いに来た理由を知っている。その手に控えめに持っている包みを見れば嫌でもわかる。彼女はバレないように僕から包みを隠しているようだけどバレバレだ。

「今日もこれからお兄さんのところに行くの?」
「うん」
「そっかあ。じゃあ私ほんとに迷惑だったね。ごめん」
「別にいいけど。でも僕、練習には来るなって言ったよね?」
「ごめんなさい……」
「別にいいけど」

彼女の家まで送ろうと足を進めるけど、話は一向に進まない。こうして彼女と二人きりの時間もすごく久しぶりなのに、なかなか話を切り出そうとはしなかった。いつもなら「雑誌に載ってたこのワンピースどう思う?」とか「髪型を変えたいけど蛍はどういうのが好き?」とか、僕を質問攻めしてくるくせに。全くこの馬鹿に僕はいつも調子を狂わされている。

そうして結局沈黙のまま彼女の家に着いてしまって、それでも一向に家に入ろうとしない彼女を仕方なく待っていてやることにする。それまでもじもじと俯いていた彼女が突然真っ赤な顔を上げた。

「山口に聞いたの」
「何を?」
「蛍が甘いもの好きって」

だから、はい。
そう言って僕に包みを差し出す彼女はまた俯いてしまった。
本当に僕の彼女は仕方ない奴だ。

「あのさあ、僕が部活見に来るの嫌なの知っててわざわざ来たんでしょ?だったらもっと早く言いなよ」

見たことのない包みだったから、きっと彼女が作ったのだろう。仕方のない奴だけど、仕方ないことに彼女が愛しく思う。馬鹿な子ほどなんとやらと言うのは本当らしい。

「そうだね……ごめん」
「あと今日謝りすぎ。そんなこと聞きたくないんだけど」

僕に言いたいことがあってわざわざ来たんでしょ?
僕が嫌がるのを知ってたくせに。本当に仕方ない奴だから、言い出すまでは付き合ってやる。だから早く言ってよね。

「誕生日おめでとう」
「ありがとう」

僕も大概素直じゃないから、聞きたかった言葉を言ってくれるまで言いたかったありがとうも言えないのだ。だから聞きたかったのであって、決して彼女の口から直接聞きたかったわけじゃない。昨夜0時ちょうどにラインを送ってきた彼女の言葉だけでは足りなかったとか、そういうわけじゃない。

2014.09.27 HAPPY BIRTHDAY !!

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