好きな人に愛されないのなら、愛してくれる人を好きになればいい。女ならばそう思うのが普通だろう。
言葉で言うのは簡単だ。思うだけなら簡単だ。それでも割り切れないのが、恋だ。

割り切れないのにどこまでも割ろうとして、結局最後にはなにも残らなかった。恋の終わりはいつだって人を苦しめる。一人にしてほしい、放っておいてほしいのに、誰かそばにいてほしくて仕方なくなる。そんなとき。

「やっぱここかよ、お前いい加減にしろよ」
「もうなまえちゃんどこ行ってたのよ、心配したのよ」

声のした方に泣き腫らした瞳を向けると、近所に住んでいた同い年の幼馴染みがいた。高校と同時に寮に入ったので久しく会っていない中宮家の双子。

「うえ、お前なにその顔」
「なんでもないし」
「はあ〜?んなわけねえだろ」

高校三年生にもなって絶賛家出中、公園の遊具の中に身を縮こまらせているとあっさり見つかった。昔からなにかあるとここに逃げてくる。そして見つけてくれるのはいつも二人だった。

「なんでいんの。寮は?」
「バーカ、外泊出してきたんだよどっかのバカのためにな」
「こら、そういう言い方しないの」
「別に頼んでないから戻ってもいいよ」
「なまえちゃんもいい加減にしなさい」

影州と静かに睨み合っていると紅印がそれを咎める。ふいっと顔を逸らすと溜め息が聞こえた。昔からいつもそう。影州と私のいがみ合いを紅印はそれとなくたしなめる。

「今回はなあに。言ってごらんなさい」

私の顔を覗き込みながら紅印は隣に腰を下ろした。それに倣って影州も気だるそうにしゃがみこむ。大の男二人に挟まれて逃げようにも逃げられない。紅印と影州が私と身長が変わりないときからそうだったので、昔からきっとわかっていてやってる。

「失恋的な感じ」
「“的な”とか“感じ”っつうか要は失恋だろうが」
「あーもうこういうときくらい優しくしてよ」
「日頃の行いがわりいんだよおめーは」
「知ってる。因果応報ってやつでしょ」

愛してくれる人を愛せなかった。だから愛してた人に愛されなかった。単純明快、世の中ほんとうまくできてる。人にしたことは必ず返ってくるのだ。だったら人にできなかったことが返ってこないことになんら疑問も抱かない。だからといって苦しくならないはずがない。私だってちゃんと好きだったんだ。

「オトコは星の数ほどいるとかアタシは言わないわ、あなたの気持ちわかるもの」
「あーあ、私紅印と結婚する」
「ごめんね、アタシが男だったらねえ」
「いやお前男だから」

影州の的確な突っ込みに思わず笑いが溢れる。それに「ひどいわ、なんてこと言うのよ影州」なんて言う紅印だって笑っている。

「だーから俺様にしとけっつったろ」
「言われた覚えないよね」
「俺も言った覚えねえな」
「さっきからなんなの」

放っておいてほしいのに、誰かにそばにいてほしいとも思う。昔から天の邪鬼な私がこんなとき、いつもそばにいてくれたのは。

「なんかいつもすみませんね」
「ほんとにな」
「こら影州。気にしなくていいのよ、でもあなたもそろそろ家出はやめてちょうだい」
「気をつけます」

そろそろ帰りましょう。

紅印が立ち上がったのを合図に私も影州もあとに続く。あまりのショックで朝からなにも食べていなかったのを今更思い出して、なにかのついでのように空腹が鳴る。

「ニャハハ、痩せ我慢してんじゃねーよ」
「うるさい、ねえ今日中宮家なに?お邪魔したい」
「なんだったかしらねえ、それよりおばさんがハンバーグ作って待ってたわよ」
「まじか、帰らなきゃ」
「ほんとに振られた女かよ食い意地張ってんな」

いつだってこうやって甘えてる、愛しい双子。
お腹が空いていたのを思い出したのは食い意地なんかじゃないのに。

「違うし、二人が来てくれたからだもん」

そう言うと目を丸くする二人は、あの頃より随分大きくなってしまったけれど昔からなにも変わっていないようにも思う。それはどれだけ時間が経って変わってしまっても、例えばその間に紅印がおネエに目覚めて影州がどんどん派手になっていってしまって私が一丁前に不毛な恋に燃えるようになっても、私達の関係が何一つ変わっていないからだと思う。

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