昨日は帰ってこなかったけど今日はどうするんだろう。ひとりぼっちで彼の帰りを待つ。決心はついた。実際に「別れよう」とか言われたら、どんだけ腹を決めたところできっとつらいんだ。だったらもう受け入れるしかない。
この前は「早く帰る」とわざわざ連絡してくれた。昨日は「当直で泊まる」と連絡をくれた。今日はまだなんの連絡も来ていない。会話だけじゃなく連絡さえ途絶えたら、私たち本当にどうなってしまうんだろう。
思い返せばこんな夜が何度もあった。二人で暮らす部屋で一人、彼の帰りを待つ時間はいつも寂しくて、苦しかった。自衛官の男一人捕まえて“帰ってこないかもしれない”なんて縁起でもないこと考えないようにしてた。でもそうじゃない。帰ってこなくなる理由なんて他にもあった。生死を分けるまでもなく男女の間じゃありふれた理由。それに気がついてからは、一人の夜がもっと怖くなった。
会いたい、と言いたい自分。彼が帰ってきたくなる理由を自分に見出だせない自分。素直になることよりも不安が勝った。その結果が今の私たちだ。鬱陶しい女になりたくなかった、ただそれだけの保身。
本当はもっと泣いて喚いて「会いたい」という言葉ひとつでも言えていたら、少しは変わっていたんだろうか。それとも、ただ終わりを早めただけだったんだろうか。
彼を想うあまり、自分本意に振る舞うには愛しすぎた。こんな結末を受け入れるには好きになりすぎた。こんな風になりたかったんじゃない。こんな結末なんて望んじゃいない。本当は彼の見てるものを私も見ていたかった。これからだって本当はそう。
一人にしないで、って言えたらこんな結末変えられるのかな。そんなことを思う。でも彼の負担になりたいわけでもない。揺れ動く気持ちの中、玄関の扉が開く音がした。
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