novel | ナノ





‥‥‥お願い。知らない世界を、教えて。

あなたの全てが、欲しいの。





【夜の帳の中で】





燭の明かりに仄かに揺れる、几帳。

布地の柔らかさが、これから始まる時間を見守ってくれる。



微かな衣擦れの音は、その几帳から生まれるのだろうか。

それとも。この落ち着かない身体の何処かから‥‥‥?



「神子、どうした?」

「‥‥え?」

「私の顔に、何か付いているのか」



ふと、我に返る。

暗闇に揺らめく燭の明かりに揺れる、色違いの瞳。


手の届かないと思っていた頃からずっと惹かれ続けた二色の宝玉は、今、確かに自分を捕らえていた。


‥‥‥他の誰でもなく。

あかねを、あかねだけを映していて。




「泰明さん‥」



胸に湧き上がる愛しさのまま、そっと呼びかける。


この名前を幾度呼んだだろう。

初めて出会ったあの日から。


いつしか特別な想いが滲むようになって、それを切ない愛しさで抱き締めるようになってきた、日々。

‥‥あなたが好きだと、何度言いかけて諦めたんだろう。



「神子‥‥いや、あかね」




褥の上。

向かい合って座るあかねの手が、柔らかな熱にそっと包まれた。



「お前の手は、いつになく冷たいな」

「‥‥緊張してるから、かな」

「‥‥‥何故緊張している」

「ええっと‥‥」



説明する言葉を考えているのか。
あかねの視線が壁を彷徨い、伏せる。
その仕草を泰明は静かに見つめていた。

手の中にすっぽりと納まる柔らかな、少しひんやりした手。

僅かに力を込めれば、ほんのり温もりが伝わった気がして。泰明はほぅと息を吐く。


この手も、この唇も、暖かな身体も‥‥全てを守りたいと願ってきた。

それが八葉としての使命だけではないと気付いたのは、いつだったのか。



「‥泰明さんが好きだから」

「‥‥‥そうか」



その答えは答えになっていない。

けれど泰明はそれ以上問わず、あかねの手にそっと力を込めた。



何があれど離さぬと、強い想いを籠めて。




「私も緊張している‥‥‥お前が、愛しいから」

「───っ!」




その言葉は、強烈な破壊力を持っているから。


暑くなる頬。
見られる事が恥ずかしいから、泰明の胸に縋りつくように埋める。

背中を強く包んでくれる手にうっとりと眼を閉じる。



やがて、愛しい重みが壊れ物のように、そっと褥に横たわらせて。





‥‥‥重なる唇。





初めて過ごす濃い夜の、その始まりを教えてくれた。








Snow Bloom」水羽薫さまの泰あかイラストに感動して書いてしまったSSものです。
最初は突発で日記に書きました。

このイラストに一目惚れしてしまいました。
表情とか、色とか、柔らかさが。
なんと言っても言葉に出来ない愛しい雰囲気がね‥‥っ(泣)


素敵なイラストにお恥ずかしい限りですが、薫さんのご好意でコラボって形にさせていただきましたーっ!!
タイトルも変更して、薫さんのイラストのものを付けさせて頂きました。
あああもう申し訳ないのと光栄(≠会社)なのとごちゃ混ぜです、どうしよう‥。
勝手に書いたのに何て親切な‥‥‥薫さんは神様です。
呪符で退魔出来そうです(それ怨霊じゃ‥)
あ、ちなみに退魔されるのは私です。是非祓って下さい。

ちなみにこっそり当サイトの長編連載番外編での泰あかだったりします。親世代になります。

薫さんとご縁が生まれて、心の底から感謝いたします。
ありがとうございました!大好きです‥っ!!


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