大地の陽番外編 | ナノ
頭をごしごしと擦りながらシャンプーを流す。
扉が開いた音は、シャワーの音に掻き消えた。
だから‥‥‥背後に迫る存在にも気付かない。
「‥‥‥ふぅ。」
キュッとコックを捻った。
シャワーを止め下げた頭をまっすぐに上げる。
髪を掻き上げ両手で水を絞ると、トリートメントに手を伸ばした。
‥‥‥が、手が空しく空を切る。
「あれ?‥‥‥え?」
きょとんとしながら眼で確認。
やっぱり、ない。
ついさっき迄、ちゃんとシャンプーボトルの隣に鎮座していた筈なのに。
(ボケてたのかな?)
なんて思ったけれど、すぐに謎は解ける。
唐突に背中を何かが這った事によって。
「ひゃあっ!!」
「ふふっ。僕としてはもう少し色気ある声を聞きたかったんですが」
「えっ‥‥‥えええっ!?」
馴染みのありすぎる、けれど聞こえる筈のない声。
一瞬固まった。
それからびっくりして振り返ると、蜜色の髪が湯気に和んでいる。
同時に、後ろからぎゅっと引き寄せられて、背中に触れる‥‥‥素肌。
逞しい片手は、腹部に回されて。
もう一方の手は、探していたトリートメントを握っていた。
‥‥‥凄く恥かしくて、顔が熱くなる。
「‥‥‥弁慶‥さん。帰ってたの?」
「ええ、ただいま」
「おかえりなさい‥‥‥でも、なんでここに‥?」
「気持ち良さそうな鼻歌が聞こえたので。外は寒かったので、僕も温もりたかったんですよ」
「あ、じゃあ私すぐに出るから、ゆっくり入って下さいね!」
再びコックを捻って湯を出す。
手早く作業しようと、トリートメントに手を伸ばした、が。
ひらりと避けられた。
「弁慶さん?意地悪しないで貸して下さい」
「‥‥‥僕を置いて出るんですか?」
耳の真下で囁かれる、艶のある声音。
「‥‥‥ぁっ‥‥だって、ゆっくりして欲しいから‥‥‥っ」
「酷いな。僕と入るのが嫌なんですね‥‥」
「違っ‥‥‥ひゃっ」
首から肩を這う、舌の感触に身震いが生じた。
「じゃぁ‥‥‥一緒に入ればいいでしょう?」
「‥‥‥やっ‥‥弁慶‥さっん、一緒だと‥ちゃんと入って‥‥‥んんっ!」
後ろから顎を掴まれて弁慶の方を向かされて、
強引にキスされた。
「んーっ!」
じたばたもがくも、ちっとも離してくれない。
強引なのは最初だけ。
すぐに蕩ける様な優しいキスに変わる。
それを知ってるから、抵抗もすぐに終わってしまう。
「‥‥‥はぁ‥‥っ」
「‥‥‥身体、冷えてしまいますね」
「こうなっちゃうから先に出るって言っ‥‥‥‥ぁっ」
また耳元を舐められる。
此処が弱い事を知り尽くされているから、本当に弁慶は食えないと思うのに。
もっと触れたいと思ってしまう、正直な身体。
「‥‥‥‥‥‥君に暖めて欲しい」
こんな殺し文句に、弱いと知っていて使ってくる。
「‥‥‥弁慶さんの意地悪」
「ふふっ。君が可愛いからいけないんですよ」
「そ、そんな事ないもん!」
「僕を感じている君が可愛いから‥‥‥つい、離せなくなるんです」
「‥‥‥‥‥‥もうっ」
触れ合う素肌が気持ち良い。
甘い囁きが身体を疼かせる。
そして、何より
弁慶の眼が熱く潤むから、
弁慶に映る自分の眼もまた、潤んでいるから。
‥‥‥のぼせてしまうまで、暖めあった。
侵略
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