大地の陽番外編 | ナノ







もう少しで消え逝く存在だから、ただお前の為の力でありたかった。

深い、深い意識の闇の中、唯一自分を掬う清らかな少女の為に。


‥‥‥その身を護り朽ち果てたならば。





笑顔を見れば、身体の何処かが締め付けられる様に、苦痛を訴える。


それが「感情」だとも知れず、痛む箇所を手で押さえ付けた。



人であれば鼓動を打つ筈の
けれど彼には静寂しかない、胸元を。














―――今思えば、あの頃既に気付いていたのだ。



彼女に向いた暖かな想いの果てに、変調を来たし始めていたのだと。

その感情の意味までは気付かず、
けれど何処かで知っていた。





‥‥‥人形たるこの身体が、壊れる。

ならば、彼女の盾となり力となり‥‥‥護り、消えたい。

それは一種の甘美を伴う夢だった。











あかねはそれを許さないと言った。

痛い、と訴える私に優しく微笑み与えてくれる、無限の言葉。




『泰明さん、凄い!何でも出来るんですね』




『それは壊れる前触れじゃないですよ。切ない、って言う感情だと思います』




『ほら、怒っているじゃないですか!』




『生まれ変わったの‥‥‥泰明さん、今日からあなたは人として、歩くんですよ』





眠りを必要とせず、人肌も知らぬこの身に

降り注がれた清らかな温もりを抱き締めた。











‥‥‥愛していると、幾度言葉にすれば
この愛を伝え切れるのだろう。






甘祝の陽









京での役目を果たして、生まれ育った世界に帰って来た。


天真くんと詩紋くん、蘭と共に。










そして
京で巡り逢い、恋に墜ちた尊い人が、私の傍を選んでくれて

私は今高校生活を送りながら、彼との恋人生活も送っている。



愛されている幸せ。

愛している幸せ。



日々幸せをこうして噛み締めて生きていられる。







そして今日は、こちらに来て初めての彼の誕生日。



早朝から詩紋に家まで来て貰って、丁寧に教わり作ったケーキ。




‥‥‥現在、午後二時。




仕事に出たあの人を家で待とう。

と、合鍵をドアに差し込もうと‥‥‥したけれど。



「泰明さんっ?」



内側から開くドア。

まだスーツ姿の泰明が、玄関の明かりを背にノブを掴んでいた。



「も、もう帰って来たの?」



しまった。もっと早くに来れば良かった。

ケーキのデコレーションに時間がかかりすぎたのが原因。

‥‥‥それと、長風呂が‥。



「仕事が速やかに片付いた。お前は‥‥‥ああ、創立記念日か」

「そうなんだよ。だから泰明さんの帰りを待ってようと思って」



聞き慣れない筈のこちらの単語も、覚えが速い。

その事にホッとして笑うあかねを見る泰明は、いつもと違い眉根が寄せられていた。


不機嫌にも取れる表情。


そのままあかねの腕がぐい、と掴まれて引き寄せられた。



「‥‥?泰明さん、どうかした?」



背後でガチャ、と鍵の音がした。


強引に玄関内に引き込まれたと思ったら、今度はまた引っ張られる。

慌てて靴を脱ぐ。
その間に荷物は奪われた。
手は離れぬままキッチンの脇を通り、泰明は今奪ったそれらをソファに置く。


そして連れて来られたのが‥‥‥





寝室。






 

  
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