大地の陽番外編 | ナノ


落葉の下で出逢いしもの





清盛は懐かしい六波羅にやって来た。


「‥‥‥やはり、この地の紅葉より美しきものはなかろう‥‥‥」


ここにはかつて、平家一門の壮大な邸があった。

壮麗にして上質な粋を凝らした趣向の邸は、訪れる者の眼を飽きさせないものだった。


「そうだ‥‥‥いつかまた、戻ってくれば良いだけの事」


一人ごち、清盛は紅葉を眺める眼を強めた。





そう。
また戻ってくればいい‥‥‥


「その為には、邪魔な源氏の奴等共を根絶やしにせねばならぬがな」


‥‥‥まぁ、それもじきに相成るであろう、と。

はらはらと散る紅葉を眺めて悦に浸った。






その時。

じゃり、と砂を踏む音がした。






「‥‥‥ん?」


清盛が振り向くと、一人の娘が立っていた。









何処かに出かける途中なのか。
‥‥‥もしくは、帰る途中なのかも知れないが。

若い娘が一人で歩くには、今の六波羅は余りにも危険過ぎる。




‥‥‥見たところ丸腰の様だ。


何故、ここに娘がいる?







清盛は直接問おうとして、娘の顔に眼をやった。







絡まる視線。








「ほぅ‥‥‥」


思わず感心する。

愛らしい娘の容貌にではなく、

じっと視線を合わせたままの、娘の度胸に‥‥‥。






この平清盛を相手に、一歩も引かずに視線を逸らさない、娘の豪胆さ。







‥‥‥長年その武力と権力を手に、様々な人物を見て来た。

そんな清盛だから判る。





このように度胸の座った人物は、平家の武将にもなかなかいない、と。




男でないのがいっそ惜しい程。





‥‥‥だが、と思い直す。
そして再び娘に注意を移した。






花も盛り、には後少し先。

それでも咲き初めの花の様に、愛らしくも初々しさを醸し出すこの娘ならば、清盛の息子の妻にぴったりではないか、と。







重盛か知盛、はたまた重衡か。







いずれにせよ、この娘と我が息子の子供ならば、並み居る武将など引けも取らないであろう。


清盛は平家が繁栄する将来を、見据えた。








ふむ、と軽く笑む。

すると娘も、ぱぁっと花が開くように笑んだ。





‥‥‥この笑顔ならば、息子達も欲しいと思うに違いなかろう。





この容姿にこの胆力。







清盛は益々娘が気に入り、とうとう口を開く気になった。




‥‥‥が。

先に口を開いたのは、娘の方だった。































「どうしたの?ぼく、迷子かな?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「あれ?口もきけない位に怖かったんだ‥‥‥可哀相に」

「あ、いや‥‥‥」

「お姉ちゃんが責任持って、一緒に探してあげるからね!お父さんと来たのかな?それともお母さん?」

「息子の‥‥‥」

「ああ、うん。ぼくは息子だよね。綺麗だなあって思ったけど、お姉ちゃんにはちゃあんと男の子だって分かっていたから大丈夫!」

「嫁に‥‥‥」

「ん?お腹空いたの?ちょうど私も空いたんだ!!捜す前にちょっと腹ごしらえしよっか?お姉ちゃんが美味しいお団子屋さんに連れてってあげるねっ」





‥‥‥でもその前に、と。

しゃがみ込んだ娘は清盛をぎゅっと抱き締めた。







「‥‥‥よく泣かなかったね。偉い偉い」







優しく頭を撫でる指先に、不覚にもほろっと来てしまった。








「あ、そうそう!私はゆきっていうの。君は?」

「‥‥‥清盛」

「きよもりくん?よし、団子屋まで競争だよ!!」















‥‥‥神泉苑で並んで座り、食した団子は美味だった。













後日。



「おい清盛!俺に話って何だよ」

「重盛。お前に似合いの娘を我は見つけたぞ」

「はぁ!?バカ言うんじゃねぇよ!!」



心に決めた女なら、既にいると言うのに。






そうして胸に思い出した少女と、清盛の言う娘と同一人物だとは、誰も知らない。







神泉苑近くの団子屋に、ファンが一人増えた日の出来事。



 

   
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