大地の陽番外編 | ナノ


 



「今年はちゃんとお菓子を用意しました!」



満面の笑顔で「ほら!」と、手を弁慶の眼前にちらつかせる。

良く晴れた秋空の、陽溜まりに似合う笑顔。












‥‥‥君の思惑なんて、簡単に覆されるのに。
















TRICK☆or☆TREAT 2






去年はまさかの敗北。


まさか、まさか弁慶がハロウィンを知っているとは夢にも思わなくて、「とりっくおあとりーと」とそれはそれは甘い笑顔で聞かれた。




想像すらしていなかった弁慶からの、魔球の様な不意打ちに、当然お菓子を渡す事が叶わず‥‥‥





その後数時間に渡り、『悪戯』された。


そんな甘い様な苦い様なくすぐったい思い出は、ゆきには赤面するものだった。




「だから、今年は頑張ったんですよ」

「‥‥‥‥‥‥」

「ちゃんと甘いお菓子を用意したから、もう悪戯できませんからね!」



にこにこと、策士よろしく。

ゆきの中では精一杯の『黒笑み』を浮かべているらしい。


可愛い顔立ちにその表情は、全くもって効き目がないと言うのに。



「それは‥‥‥困りましたね」

「えっ?‥‥こ、困るんですかっ?」

「ええ。実は僕、何も用意していなくて‥‥」



困りましたね。



もう一度同じ言葉を紡ぎながら、吐息混じりに肩を落とす。

そんな弁慶が妙に色っぽくゆきは目を逸らした。




何となく、視線を絡ませては危険な気がして。






「じゃ、じゃあ、今年は私が弁慶さんに悪戯出来るんですね?」

「ええ、そうなりますね。残念ですが」

「本当!?うわあ‥‥‥!!」





じゃあ何をしようかな〜?
なんて‥‥‥してやったりと言わんばかりに、君が無邪気に喜ぶから。


触れたくなるのは恋人としての性。









「嬉しいなあっ!何だか勝った気分」

「僕の負けですね。仕方ない」

「そうですよ、弁慶さんの負 「さぁ、どうぞ」 ‥‥‥‥え?」



頭から被っていた外套を、ゆっくりと脱ぐ。


わざと、布地をゆっくりと撫でた。

そうっと、そっと。
辿る指先が、彼女の眼を惹き付ける様に。



‥‥‥それは、この指が肌を辿る時と同じ、優しい触れ方。




「ちょ、待って‥‥‥っ」



案の定、ゆきの目が泳ぎ出した。
頬が赤く色付いている。



「僕に、悪戯するんでしょう?」

「‥‥‥‥‥‥うっ。す、する、けど‥‥」

「さぁ、僕は逃げも隠れもしませんよ」



後退しようとしたゆきの肩に両手を乗せ動きを封じ、栗色の双瞳を真っ直ぐに射る。



そうされた彼女がどんな反応を示すのか。


手に取る様に想像付いた上で、ゆきの間近に寄るのだから、これは確信犯と言うべきだ。




予想通り‥‥潤む眼と、染まる頬が、ゆきを引き立たせた。



「悪戯、しないんですか?」






弁慶は、困って俯くゆきに一歩踏み出した。

肩に触れた手に力を込めれば、小さな肩がぴくりと揺れる。




それが自分に反応しているのだと知って嬉しくて、少し逃げかける身体を引き止めれば、腕に収まる柔らかさ。






「‥‥べ、弁慶さんっ」

「ほら、下を向いていては悪戯出来ないでしょう?」

「だだ、だって、弁慶さん!」

「はい?」

「‥‥‥上を向いたら何されるか分かんないんだもん」

「何、とは何ですか?」

「わ、分かんないけど何となく!!」



俯いたままもう、耳まで真っ赤。


腕の中でゆきは逃げ出す事をせず、さりとて身を委ねず。
じっと身体を硬くしていた。





 

  
戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -