大地の陽番外編 | ナノ


 



『明日は景時さんの誕生日ですよね!』


『ええ、そうよ。確か明日は兄上が生まれた日ね』


『そう言えば俺不思議に思ってたんですけど、九郎さん達って誕生日と聞いても普通ですよね。弓の稽古で京の人と親しくなりましたが、誕生日を祝う習慣はないみたいだから』


『ああ、確かに譲の言う通りだ。だがここにはあいつがいるからな』


『ええ。彼女が二年前から始めて、今ではすっかり習慣になりました』


『あの子ってばお祝い事が好きなんだから』






部屋の中から漏れ聞こえる(大)声。
何となく照れくさくて、室内に入れなくて。

眼に涙が滲んできたから慌てて擦った。

三度目ともなればどんな祝い事になるのか大体分かる。
今年は去年よりずっと人数が増えたから、その分楽しいだろう。


おめでとう、って嬉しくて。
向けられた笑顔に幸福を覚えるんだ。




明日はオレの、誕生日。







蕾のままで





 


(‥‥‥のはずだよね?)



確かに昨日、朔達が楽しそうに話していた話題は、確かに(二度目)「景時の誕生日」だった。


暦の上でも今日は確かに(三度目)「景時の誕生日」だった。





‥‥‥‥‥のに。





「景時さん‥‥‥よそ見だなんて良い度胸だよね‥‥‥」

「えええっ!?」



(何でこうなってるの!?)




景時は陰陽術式銃の引き金にかけた指に力を入れた。
そうしなければ、彼の身体は木っ端微塵に吹き飛んだのだろう。


空中に浮かぶ星紋が淡い光を放ち、壁となり紅蓮の炎を防ぐ。



「くっ‥‥‥」



炎を生み出す彼女の霊力は尋常じゃない。
銃を構えたまま一歩後退る。


「オン・バサラ・ウン‥‥‥‥」



更に呪言まで唱えたのは、壁を強化する為。

景時が唱え終わった瞬間、紅い炎は巨大化した星紋に包まれてその姿を消した。



「‥‥‥‥‥‥やるね、景時さん」


にっこりと、あどけなく笑う。
見る者を微笑ましく思わせる笑顔は、けれど眼に浮かぶ光が不安を呼んだ。

‥‥‥冷や汗が背筋を伝う。


「いやいやちょっと待ってよゆきちゃん!何でこうなってるの!?オレ寝てたよね〜?寝てたんだよね!?」

「はい!寝てましたね」


続けざまに呪符を構える彼女に向かい、ぶんぶんと両手を振りながら停止を呼び掛けた。


「ちょっと待ってよ、すとっぷ!すとっぷしてよ〜!」

「発音が悪い!ストップだよストップ。ほらやり直し」

「ええっ!?‥‥‥す、すトっぷ‥‥‥?」

「‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥慣れない言葉は使わない方がいいよ、景時さん」

「ううっ‥」



溜め息混じりの一言にグッサリ傷ついて、景時は空を見上げた。





おかしい。

いくら何でもおかしすぎる。



「‥‥‥‥‥‥何で起きたらこんな所にいるんだろうね〜?」

「えっとね、拉致したから?」



小首を傾げて質問に答えるその姿は、景時の大切な存在。
思わず釣られて笑いかけたが‥‥‥。



「答えになってないよ、ゆきちゃん‥‥‥」




(誰か説明してよ〜!)



泣きたい気持ち、とはこの事を指すのだろう。
‥‥‥いや、既に涙は滲んでいたが。



 


  
戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -