大地の陽番外編 | ナノ


永遠の陽



夜闇に包まれているのに、月の光が朧げに辺りを照らす。


(泰明さん‥‥‥どこ?)


どこか現実と違う気がする世界。



濃厚な樹々の香りも
さわさわと葉をこする風の音も、



こんなにはっきり感じるのに、夢みたいで。









「――泰明さん!‥‥泰明さん!!」








あかねの声がする。
必死に、自分を呼んでいる。





もう会わぬと決めたのに
消えて行く運命だと解っているのに

声に足を止めてしまう。





急斜面を
息を切らせながら
必死になって登る少女がいる。


暗くても泰明の目には明瞭に見える。
自分が傷付けた少女の姿が。

彼女が呼び掛ける自分の名前が、灼熱のように感じる。


心のない自分に、
こんな熱が宿ってしまったら
もう、彼女の側には居られない。



消えゆく時に、彼女に会うのが『辛い』。










「‥‥泰明さん!お願い!!返事をして!!」










あかねは息を飲んだ。
月を背に、陰陽の紋様の狩衣を着た青年が、佇んでいたから。


「泰明さん!!」

「何故来た、神子」





拒絶する彼の意思を無視する。



切ないけれど、彼を失うほうがずっと辛い。






「私は安倍晴明の陰の気から造られしもの‥‥‥
陽の部分である心を持たぬ」





「‥‥嘘つき!
じゃあ、何で怒っているの。
何で、泣いているの」








貴方の心は優しさで溢れているのにね。







そんな貴方が愛しい

失えない
失いたくない


貴方がくれた優しさを
私はもう手放せない











「泰明さんの心はちゃんとここにあるよ。
私を守ろうとしてくれた、優しい心が、ここに」














やがて、静かに涙を流す彼を抱き締めた。



すがりつくように、彼も腕を回した。









強く、お互いの存在を確かめ合うように‥‥









『愛してる、神子』



切なくて、愛しさの溢れる声‥‥‥

その言葉が、はっきり聞こえた。





「愛してる、泰明さん」







いつでも教えてあげるね。




私の幸福は、貴方と共にあるの。









‥‥この日、彼に施された呪は全て解かれる事となった。







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