大地の陽番外編 | ナノ








「弁慶殿、あの子をどうにかして下さい」





あの子、とは間違いなくゆきだろう。

どうにか、とは。
何となく想像付いた弁慶だが、一応知らぬ振りで首を傾げる。


「どうにか‥‥ですか?朔殿」

「あの子、何をしたいのか謎なのだけれど‥」


と呆れた様子の朔が溜め息混じりに事の次第を告げた、その後。


「そうですか。それは楽しみですね、今年も」

「‥‥弁慶殿?」


首を傾げる朔の前で、珍しく弁慶が笑い声を上げた。











TRICK☆or☆TREAT 3









一昨年は、突然の出来事に成す術もなく翻弄されて

去年は、用意したのに隙を突かれてやっぱり悪戯されて


今年こそ、「三度目の正直」にするんだから。







「よし!出陣開始!」

「出陣って‥‥戦みたいな事を言うなよ、元宮」

「これは戦なの。有川くんには分かんないんだよ、この乙女心が!ね、敦盛くん?」

「あ、ああ‥‥私にも判らないが、ゆきにはそれ程覚悟がいるのだろう」

「わぁ、敦盛くんはわかってくれる!?流石優しいねっ」

「いや、それは」

「元宮‥敦盛が困っているだろ」


濡れ縁にゆきと並んで座り、顔に「理解不能」と書きながらも気を使い余計な口を挟まぬ敦盛が、曖昧に頷く。

そんな二人の正面、つまり庭。

植物の手入れをしながら、敦盛より更に「理解不能」と顔に表す譲をゆきは睨み付けた。


「‥な、何なんだ?」


睨まれた所で迫力も恐怖も全く感じないが、若干たじろいでしまう。


「有川くんのせいなんだから‥」

「は?どうして俺の所為なんだよ」

「一昨年!あんな事を吹き込むから!」

「‥‥一昨年?吹き込んだって誰になんだ?」


どうやら全く覚えてないらしい。

一昨年のこの時期、あの時はまだ恋人でなかった「彼」に、余計な事を吹き込んだのは目の前の青年だと言うことを。

八つ当たりだって分かっている。
けれど腹は立つから譲の問いには答えてやらない。


ゆきは高くなった太陽を見上げ、ぼんやりと今朝の事を思った。


数日前から考えに考え抜いた作戦の為、身支度にかなり時間が掛かったのだ。
途中朔に見咎められ少し怒られたけれど、やめることは出来ないし理由も言えない。
そう返せば、呆れながら部屋を出て行った朔。

その背中にごめんねと小さな声で謝ったのは、敦盛達に会うほんの少し前だったりする。


(‥だって、今日こそリベンジするんだもん!!)


そう、彼に。

去年もその前の年も、鮮やかに敗北してしまったのだから。
これはもう、女の意地とプライドをかけた戦いなのだ。
あくまでもゆきは真面目に思った。



近付く気配に固まった、この瞬間までは。



「教えてあげればいいじゃないですか、ゆき?」




‥来た。




くすり、笑いながら背中に掛けられた声に、咄嗟に思ったのはその二文字。
悪戯を見つかった子供のような気分で、他に何も浮かんでこなくて。


「此処に居たんですね。話があったので探していたんですよ」

「あ、そ、そうなんだ!見つかってよかったですねっ」


笑って返したはいいけれど、振り返れない。


「‥‥ゆき?」


訝しげな声、そして目の前に回りこんだ弁慶の手が、顎に触れる。

そっと、でも強引に視線を合わさせられて。それから。


「それで、今度は何を隠しているんですか?」

「っ!?」



(ど、どうして!?まさか読心術!?)



「読心術ではありません。君と僕の仲だから分かるんですよ」

「わ、私まだ何も言ってない‥‥‥それに、仲って何ですか!」

「言わなければ分かりませんか?昨日一晩かけて僕の 「ぎゃあっ!!」 れて泣きながら 「ひぃぃっ!!」 っていたじゃないですか」

「ちょ、やっ、やだよ弁慶さんっ!」



にっこり笑う弁慶の胸倉を掴まんばかりの勢いで、ゆきは慌てている。

あろう事か、昨夜の思い出すだけで赤面するような出来事を。
さらっと口に出すなんて。



「嫌‥‥?そうですか」


弁慶が切なそうに笑う。


「昨夜は合意の上だと思っていたのは僕だけで、君は嫌だったんですね」

「え‥‥えええっ!?」

「どうやら舞い上がっていた様です。嫌がる君にも気付けないほど‥‥すみません」


するりと手を離し申し訳なさそうに眼を伏せた途端、ゆきは我慢出来ず弁慶の両手を掴んだ。
何があっても離さない、そんな強さで。


「ち、違うの!嫌なのは今、恥ずかしいからで!昨日は嬉しかったの!」

「‥‥」

「ほんとです!だって私、弁慶さんに触れられるとすっごく幸せで、‥‥‥‥っ!?」


そこまで夢中で言い募り、はっと我に返るも時既に遅し。

目の前には、蜂蜜プリンをもらった白龍よりも晴れやかな笑顔を浮かべる恋人。



「‥ま、まさか」

「ふふっ、熱烈に告白されて嬉しい限りです」

「やっぱり!弁慶さんのバカっ!敦盛くんたちの前で‥‥っ!」



怒りながら視線を巡らせると、さっきまでそこに居たはずの二人の姿はなく。


「ああ、彼らなら僕に気付いた時点で何処かへ行きましたよ」

「へっ!?」

「きっと気を利かせてくれたんでしょうね」


彼らは優しいですから。
と弁慶は笑うが、本当は火の粉が降りかかる前に退散したんだとゆきは思う。



ゆきがこの儚げな笑顔に弱い事を熟知している弁慶に、これまで何度も振り回されてきた。
それでも嫌だと思えないのは、こうしてゆきが気持ちをぶつけた後の、嬉しそうに緩む眼差しが訴えてくれるから。

‥‥君が愛しいのだと。


「僕の部屋に来て頂けませんか?」

「う‥‥はい」



‥‥‥来た。


浮かぶのは、さっきと同じ二文字。

いよいよ決戦の時が来た。








  
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