大地の陽番外編 | ナノ
自覚したのはいつだったか。
胸がぎゅっと縮む、そんな不思議な感覚を覚えた日。
そう。あれは、多分‥‥‥夕暮れの教室だった。
『‥‥‥元宮?』
あの日、放課後に居眠りしていた私は、ガラッと引き戸を開ける音で目覚める。
入り口に眼を向けると背の高い細身のシルエットが、逆光を受けてすらりと立っていた。
『有川くん‥‥‥?』
『寝ていたのか?もうすぐ門が閉まるけど』
『嘘っ!?』
『本気で居眠りしていたのか?‥‥‥全く、仕方ないな』
『あ、うん。ごめん‥‥‥』
『荷物、持つよ』
夕焼けに照らされながら浮かべた、小さな笑み。
机に掛けられた重い鞄は、ひょいとさらわれた。
『‥‥‥ありがとう』
この頃はまだあまり人に馴染めなくて、塞ぎがちだった私。
籠る声でお礼を言う事すら精一杯だった。
そんな私にもう一度『仕方ないな』って。
胸に染みる、控え目な笑顔。
元宮はそれでいいよ、って認められてる‥‥‥気がして。
ことん、と胸の中で何かが音を立てた。
勝算なんてどこを探してもない。
初めから一方通行の恋が叶う事がないって、知っていたよ。
It was first love
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