大地の陽番外編 | ナノ


 







貴方は私の為に、生まれ育った世界を捨ててくれた。



ずっと傍に居たいから
そう言って、笑いながら






世界で一番幸せだと思った

この人をずっと愛していけるって














でもね、

‥‥‥時間が経てば、人の気持ちは変わるのかな














ねぇ、もっと抱き締めて欲しいよ




もっといっぱいキスがしたいよ







近いのに触れられない距離は


離れていた頃より、ずっと苦しくて










‥‥‥心は こんなに 遠い。








そんな中で迎える聖夜。

白い雪がなおさら切なかった。










ちかいのしるし




 








『24日‥‥‥ですか?‥‥‥はい、大丈夫ですよ』




  ‥‥‥君と過ごす為なら、何が何でも空けておきます


去年くれた言葉も、今年はかけられない事にゆきは気付いている。

返事が来るまでの微妙な空白にも。




「じゃぁ、いつもの時間にいつもの場所でいいですか?」

『そうしましょう。ではまた』

「あ、あのねっ‥‥」

『どうしたんですか?』

「‥‥‥ううん。なんでもない。おやすみなさい」

『‥‥‥‥おやすみ、ゆき』




ゆきが終話ボタンを押すまで、優しい弁慶からは切る事はない電話。
最初は受話器越しの声が嬉しくて新鮮で、用もないのに電話をしてはありふれた会話を繰り返していたのに。


今では、話題さえも見つからない。


無理やり終了させて、溜め息を吐いた。
このまま切らずにいれば泣きたくなるから。





「24日、かぁ‥‥‥」





カレンダーを見る。
ピンクのペンで囲ったハート印がやけに切なかった。




「‥‥去年のイブはこんな気持ちを知らなかったのにね」





弁慶が京からこの世界に来て二年が経った。

すぐに一緒になるのかと思っていたゆき。



『この世界での僕は赤児のようなもの。世の中を知り自分の基盤を造って、君に相応しくなるまで待ってくれませんか』



けれど彼は、異なる世界で生きることを真剣に受け止めようとしていた。
ゆきとの将来も大切に考えてくれたのが嬉しくて。
だから、同棲することも我慢した。

本当は一番側で支えたかったけれど。





それでも最初は良かった。


休日の度に、名所案内だとか理由をつけてのデート。

結局の所はゆきよりも、この世界に意欲的な弁慶の方が色々と詳しくて。
よく迷子になったゆきを見つけてくれた。

デートの後には弁慶のマンションで肌を合わせながら、お互いの失態を笑いあったり。


あの頃は何もかも新鮮で。
それこそスーツ姿にドキドキしたり、慣れない習慣を笑ったり‥‥‥。


幸せだった、とても。

こんな日がずっと続くと信じていた。











‥‥いつからなんだろう。


『すみません、仕事が入ってしまって‥‥』


申し訳なさそうな電話越しの声に、溜め息を押し殺すようになったのは。


『寂しい思いをさせてしまってすみません』

『大丈夫。仕事、頑張ってください』

『ありがとう。好きですよ』


いつからだろう。
着信名を見ただけで、最初の言葉が当てられるようになったのは。
意欲的で有能な人だから。日を重ねるごとに、仕事が忙しくなっていく。


‥‥その分だけ、離れてしまった。



言えなかった寂しさは積もリ過ぎて、息苦しさを覚えている。
キャンセルの理由まで邪推してしまう自分が醜くて、嫌いで。
その度にこっそり泣いた事を、隠して。

弁慶と会える僅かな時間、笑っているのは疲れてしまった。




崖から飛び降りる勢いで誘ったイブのデートは、きっと最後。









きっと、この日に

何年も想い続けた恋が終わる。









自分に出来るのは、最後まで笑っているだけ。

ただ‥‥‥それだけ。


 


  
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