大地の陽番外編 | ナノ
「‥‥‥‥んっ‥」
眠っているのはいつもと同じはず。
だが、何故か身体中が重い。
‥‥‥おかしい。
目を開けて確かめようとは思っていた。けれど。
(‥‥‥目が、かか、金縛りとかで開かないオチだったらどうしよう!!)
この圧迫感が心霊現象だとしたら、失神するかもしれない。
そう考えると、怖くて開けられない。
(‥‥‥いや待てよ。考えたらここって京だった)
惚けた頭がゆっくりと廻り出す。
‥‥‥そう、ここは京。
幽霊だの金縛りだの、そんな可愛らしいものはいない。
どちらかと言えば幽霊みたいにじっとしてくれるものじゃなく、実際に追い掛け回して来る「怨霊」と呼ばれる、より怖い存在がいる。
ついでに言えば金縛りのような疲労か心霊現象か分からない曖昧なものじゃなく、「束縛」なんて厄介なものが存在するのだ。
(‥‥‥そう言えば私も束縛出来る陰陽師だった)
何とも呑気な事を思い、ゆきは眼を開ける決心をした。
それを実行に移すのは、すぐ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
またまた何とも言えない間。
ゆきは開けた眼を一端閉じ、信じられないものを確認すべく再び開けた。
「‥‥‥べ、ん‥けいさん?」
隣で、掛け布団の上で横になって‥‥‥ゆきの腰を布団の上から包んでいる腕の持ち主。
光加減で蜜色にもなる癖毛を散らして眠っているのは、
心通わせたばかりの恋人だった。
(えええっ!?なんでっ!?)
まだ、共寝するような艶めいた関係には‥‥‥至ってないのに。
キス以上の事はまだ何もしていないのに‥‥‥。
パニックに陥ったゆきは、咄嗟に口元を手で押さえた。
驚いた声が漏れないように。
「‥‥‥ん‥‥‥ゆき‥‥?」
ゆきの身動きを感じたのか、弁慶が眉を顰めた。
そのまま眠るのか、と思いながら見つめる。
けれど長い睫毛が震え、うっすらと眼を開けた。
この世で一番ゆきをドキドキさせる、彼の眼が自分を捉える。
その瞬間にいつも苦しい位に幸せを感じる事を、弁慶は知っているのだろうか?
「なんで‥‥君がいるんですか‥‥‥」
「へ?ここ、私の部屋ですけど」
「ああ‥‥そうみたいですね」
夢と現の狭間を漂う、ぼんやりした声。
珍しく間の抜けた弁慶の様子に、愛しさが込み上げてきた。
「ふふっ。弁慶さん、可愛い」
クスクス笑う彼女は隙だらけ。
伸びた腕にも気付かないで、今発見した事実に喜んでいた。
身体を掴まれた、と思ったらもう、反転した視界。
「‥‥‥うわっ」
「男に向かって可愛いなんて言ったらどうなるか、君は考えた事がないんですか?」
「えええっ!?ちょっ、今まで寝てっ‥‥‥?」
息が触れそうな近さに弁慶の顔。
そして彼の肩越しに、天井。
(うわぁぁぁ!!おお押し倒されてるっ!?)
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